公共交通存続のために


毎日新聞No.267 【平成20年7月25日発行】

  現在、地域公共交通に関する議論が盛んだ。私も地域公共交通に関する調査研究、会議などに多数参加させていただいているが、課題は多い。
  02年2月、規制緩和の一環として改正道路運送法が施行された。同法は、それまでの実質地域一括での事業許可を取りやめ、競争原理を導入し、旅客運送事業の生産性向上を目指したものである。
  生産性の向上はあらゆる産業サービス分野で不可欠のものであるが、競争原理導入による参入、撤退の原則自由化は、地域一帯での採算確保で維持されている地方部での公共交通を、更に弱体化させている。つまり、赤字路線への補填財源となっていた黒字事業および路線への新規参入により収益は益々減少し、赤字路線からの事業者の撤退を加速させている可能性が大きい。

  県内の公共交通は路線バスのウェートが大きい。しかし、県内の路線バスは、長期に亘って路線縮小が進行し、路線縮小~輸送人員の減少~赤字拡大~更なる路線縮小という負のスパイラルに陥っている。また、改正道路運送法施行直後の03年には大きく走行キロ数が減少している。
  こうした中、07年10月には「地域公共交通の活性化および再生に関する法律」が施行され、地域公共交通の活性化に向けた検討が進められているが、特に注意すべき点をいくつか述べる。
  第一は、県内の多くの路線バスは赤字路線であり、半公営であるということ。つまり、路線毎の事業採算確保という前提に立てば、県内の路線バスのほとんどは消滅する。
  次に、半公営という認識に立脚し、既存のサービスも含め、どの程度の交通サービスをだれに対して優先的に提供すべきかを明らかにしなければならないということ。
  最後に、交通需要について。今後高齢化の進展や燃料費の高騰がどれだけ路線バス需要に直結するのかどうか。マイカー前提の現在の都市構造において、どれだけ公共交通が代替手段となりうるのかということである。また、これらバス路線の一部改善が公共交通全体に及ぼす影響についても考慮しなくてはならない。

  過度な目標や要求、甘い需要予測は結果的に公共交通を「失敗」へと導き、存続を危うくする。慎重な検討と判断が求められている。

(山梨総合研究所 主任研究員 小笠原 茂城)