インターネットと観光


毎日新聞No.269 【平成20年8月29日発行】

  今夏、藤沢市に住む50歳代後半の友人から、夫婦でワインが楽しめる民宿はないかという相談を受けた。県内事情に詳しい方に聞いて、勝沼の1軒の民宿を紹介した。その後、友人から連絡があり、その民宿は11月まで満杯であるとのことであった。また、横浜市に住む同世代の女性によると、山梨には夫婦あるいは友人とワインと食事の行楽の旅をするという。山梨県内に長らく居住すると、こうした小さな旅の動向や山梨の魅力は見えにくい。
  シニア族がどのように旅先を選ぶのであろうか?中高年のネットを主催する知人によれば、シニア族はネットで趣味の仲間を探し、ネットで知り合った趣味仲間とともに行楽に出かけたりする。旅行経験の豊かな人々は信頼できる仲間からの口コミで旅先を選ぶとのこと。旅先の体験が満足できるものかどうか、期待通りのものであったかは、ネットの中で瞬時に広まる。恐らく、例にあげた民宿は周辺環境を含め、顧客満足の高い、リピーターが過半を占める旅先になっているのであろう。

  2000年、OECDはインターネットによる商取引が企業にとって顧客を拡大する機会を与えることを、翌年WTOは観光分野においても、E-商取引が中小観光事業者に効率的な販売方法を与えてくれることを明らかにしている。こうして、ヨーロッパをはじめとする観光地域では、インターネットによる国内外の観光市場に向けての観光情報の提供、客室の販売を行うE―ツーリズムが盛んである。
  また、観光企業や観光地域にとって、新たなトレンド、市場の理解やICT(情報通信技術)の活用技能の習得は重要である。地域大学等の教育機関が観光スタッフをインターネットで教育する仕組みがE-ラーニングである。特に観光施設・観光企業が分散している地域でのスタッフ教育にはE-ラーニングが適切である。観光分野におけるE-ラーニングも同時に推進されつつある。

  山梨県は言わば全県が観光地であり、観光企業のほとんどは家族経営を中心とした中小企業である。地域産業振興のためには、全県を挙げて、E―ツーリズム、E-ラーニングの推進戦略を検討する必要があろう。

(山梨総合研究所 調査研究部長 中田 裕久)