あと少しの心のゆとりを
毎日新聞No.270 【平成20年9月12日発行】
今年の春から交通指導員のボランティアをしている。活動の場は県外だが、自分でハンドルを握るのはほとんどが山梨県内であり、何度か街頭に立つにつれ、いわゆる「山梨(甲州)ルール」に代表される運転マナーが気になっている。
交差点で強引に右折する車、ウインカーを出さずに突然右左折や車線変更する車、合流地点でもかたくなに割り込みを拒む車…少しでも早く、少しでも先に進みたいという心理が強いのだろうか。実際にはこのような運転は山梨に限らず全国あちらこちらの交通慣習として存在するが、無理をして先を急いでも、結局次の信号に引っかかって後続車に追いつかれる経験は誰もが持っているはずだ。またよく言われることだが、高速道路が混雑している時には追い越し車線よりも走行車線の方が実はスムーズに走れることが多い。これも「少しでも…と多くの人が考え、追い越し車線に車両が集まるゆえんであろう。
高速道路といえば、お盆のUターンラッシュの中、中央自動車道上り線の小仏トンネル周辺で面白い社会実験が行われた。車間距離を40メートル以上空けて走行することで、渋滞の発生を抑えようという試みである。
実験を実施した東京大学の西成准教授の研究では、先頭車のブレーキによって後続車もブレーキを踏み、それが次々と連鎖していくことで後続車の速度が落ち、いずれ停止する。これが渋滞発生のメカニズムだという。もちろん、料金所や車線減少などの物理的なボトルネックの問題もあるが、皆がきちんと車間距離をとって一定速度で走行していれば渋滞は起きないことになる。事故の発生や無駄な燃料消費もずいぶん抑制されるはずだ。
車両間隔を自動で制御する技術は一部の市販車に搭載されているが、一般への普及は当分先になるだろう。それまではやはり個人の意識に委ねられるところが大きいわけで、この実験の成果ができるだけ目に見える形で示されることを期待したい。
「狭いニッポン そんなに急いでどこへ行く」懐かしい標語であるが、ハンドルを握る時には今一度こうした気持ちのゆとりを持ちたいものである。
(山梨総合研究所 主任研究員 柏木 貞光)