「食」から地域を読みなおす
毎日新聞No.271 【平成20年9月26日発行】
「すばく料理」をご存知だろうか。これは昭和30年ごろまで早川町内で広く主食として食べられていた郷土料理である。今ではほとんど見られなくなったが、茂倉地区では時々奥さん方が集まって「すばくパーティー」を開いて懐かしい味を楽しんでいる。
丸麦に小豆やうずら豆、米を入れて2日がかりで炊き上げる。本格的には釜をいろりの火にかけゆっくりと炊き上げる。固めの「おじや」風に炊き上がった「すばく」は、ねぎ味噌を付けて食べたり、荏胡麻(えごま)を擦り込んだ「冷や汁」というみそ汁をかけて食べるのが一般的で、美味しいだけでなく大変ヘルシーな料理である。
5年ほど前だったろうか、地元の料理研究会の皆さんが開発した「すばくコロッケ」(「すばく」を具にしたコロッケ)を食べさせていただいたことがある。その美味しさにすっかりはまってしまい、何とか商品化して全国へ売り出せないかと大手の弁当メーカーに開発を依頼したことが思い出される。
さて、山梨県の食文化というと、「ほうとう」「煮貝」「さくら肉」「ワイン」などが挙がってくる。海の無い山梨県の食文化はとかく貧しいと言われるが、海から離れていることが、隠れた食文化を育んできたのではないだろうか。
例えば、干物には生魚とはちがったうまみがある。干物にする過程で水分が減り、たんぱく質やその分解物であるアミノ酸が増え「うまみ」が増す。スルメイカ、姥貝などのうまさは忘れられない。甲州小梅や漬物、煮貝など発酵食品も豊富である。
山梨県立博物館では10月11日から12月8日にかけて企画展「甲州の食べ物紀行」を開催する。江戸時代後期のころ甲州を訪れた旅人がどんな食物を楽しんでいたのか・・・、「うまみ」の秘密を科学的に分析してみると・・・など、意外な発見が期待できそうである。単なる展示だけでなく模擬店の出店も予定されているようであり、今から楽しみにしている。
(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)