街づくりに思う
毎日新聞No.272 【平成20年10月10日発行】
総務省の定住自立圏構想研究会が「定住自立圏構想」という報告書をまとめた。それによると、①東京圏への人口流出を食い止めるとともに、地方圏への人の流れの創出②中核都市が周辺市町村と圏域を形成し、分権社会に相応しい自立且つ安定した社会空間の創出③ライフステージに応じた多様な選択肢のある公共サービスの提供がテーマとなっている。
報告書の中で特に目を引いたものが、③である。これは一人ひとりの住民が、ライフステージごとに様々な公共サービスを自らの意思で選択できる街づくりということである。
例えば年齢ごとに見た定住に必要な街の機能は、20歳前後には就学の場や就職の場が必要となる。40歳前後には今後の職業生活をどう考えるのか、子供の教育をどうするか、どこで家を持つのか、あるいは親の介護に必要な環境は整っているかなど。60歳前後になると第二の人生を考え、社会貢献の場があるか、心豊に生き甲斐を持って暮らすための場があるかなどが必要となってくる。
これらの条件を今、私たちが暮らす街に置き換えて見ると将来の街づくりの姿が浮かび上がる。最初に子育てがしやすい街であることが求められる。子供を生みやすい環境や育てやすい環境が整うことにより二人目、三人目の子供をと考える親も出てくる。
次に、教育システムが整っていることが必要になる。経済のグローバル化や知的社会の到来により一人ひとりの高い技術力や専門能力が要求される時代になった。こうした能力を磨くためには義務教育から大学などの専門教育までしっかりした教育システムが必要である。
この他、子育て世代家族の住宅と夫婦だけでは広すぎる住宅との住替えができるようなシステムが必要である。そして老後には歩いて移動が可能で、医療福祉施設や社会貢献の場が身近にある街。また、身近には日用品や食料品が手に入りやすい小規模な地元の店舗が存在し、それが住民のコミュニケーションの役割を果たす街。こんな街づくりが浮かぶ。
これは、以前、私たち日本人が普通に享受していた、住民が主人公の生活圏域であり、経済成長優先の中で急速に失ってしまった街そのものであるように思う。
(山梨総合研究所 専務理事 福田 加男)