農産物直売所の可能性


毎日新聞No.277 【平成20年12月19日発行】

  農産物直売所が盛況だ。県内の07年度の売上高は、42億円弱となり、前年度比16%増で過去最高を記録したことが県農政部の調査でわかった。消費者の「食の安全」への関心の高まりが背景にあると分析されている。
  今後、直売所はさらに拡大し、農産物の販売だけではない多面的な機能を持つ可能性を秘めている。そのためのヒントが米国ファーマーズマーケットにあると思われるので紹介したい。

  農業が巨大ビジネスとして展開されるアメリカでも、近年の輸送に要する高コストと食の安全への消費者の関心の高まりから、小規模市場による地産地消が脚光を浴びている。米農務省の統計によると、全米で開催されるファーマーズマーケットの数は、この14年で約2.7倍に膨れ上がっているそうだ。
  一般的なマーケットの形態は、週1回程度、中心市街地の通りや広場などに露天が軒を連ねるもので、日本の直売所とは趣が異なる。農産物の他、地元工芸品やワインを売る店も並び、大道芸、ライブ演奏も行われる。
  私は米国滞在中、住んでいたアパート近くで開かれるマーケットをとても楽しみにしていた。色も形も様々な農産物を品定めしながら、ビールを片手にローカルな料理を楽しんだものだ。会場では、出店者と客、あるいは客同士の間で会話の花が咲き、素朴だが生き生きとしたにぎわいであふれていた。市場が、健康志向の消費者だけでなく、だれもが楽しめる場所として、コミュニティを活性化しているのである。
  出店農家にも様々なメリットがある。その中に「消費者が求めているものを、直接肌で知ることができる」点をあげる農家が多いそうだ。自分が育てたものを喜んで買っていく人たちがいる。収入は直接自分に入ってくる。生産の喜びが増すに違いない。

  さて、日本の直売所はどうだろう。品物に産地や生産農家の表示はある。しかし、そこに生産者はいない。スーパーの売り場をそのまま切り出したようなスタイルは、工夫の余地がありそうだ。
  直売所を、単にモノを「売る所」ではなく、人々が集う「マーケット」として特長づけられないだろうか。農業復興ばかりでなく、地域コミュニティ活性化にも有効であると考える。

(山梨総合研究所 主任研究員 依田 真司)