富士には燃料電池バスを


毎日新聞No.280 【平成21年2月6日発行】

 このところ、富士山への鉄道敷設の議論がにわかに盛り上がりをみせている。しかし、筆者がふもとに住んでいた20年以上前のことを思い起こしてみれば、にわかどころか、ロープウェイや地下トンネルなど、富士山への大量輸送手段を確保しようとする意見は、地元では昔から繰り返し話題になってきたように思う。
 昨夏のように、山梨県側からだけでも24万人以上もの人々が富士山に押し寄せ、そのほとんど全てが自動車交通に頼っているのだから、より環境負荷の少ない交通手段が求められていることは確かだ。

  現在進行している電気鉄道案では、富士スバルライン上に線路を敷設するため、自然環境への影響はないとされている。しかし素人目に見ても、例えば何本ものヘアピンカーブを曲がりきるには相当コンパクトな車両にするか、道路から樹林帯に向かって線路を延長してスイッチバックとする必要があるのではないか、600億円から800億円とされる建設費を誰が負担するのか、など様々な疑問が沸いてくる。
 それだけの投資をしようというのであれば、代案として、麓から5合目まで燃料電池バスによるピストン輸送をする方法が考えられるのではないか。
 山麓に都市ガスを改質して水素を製造・供給する水素ステーションを整備し、富士山だけでなく富士五湖周辺の路線バスを、順次燃料電池式に置き換えていけば、それだけでも十分話題性がある。やがて富士北麓のクリーンな公共交通体系が出来上がるだろう。
 また、地元富士吉田市長などが発言されているとおり、入山規制も検討されるべきだ。その点、全面的にマイカー規制をした上で、高速バスと同じように座席指定制にすれば、コントロールもしやすい。もちろん、現時点では燃料電池車自体の価格や耐久性、航続性などに問題はあるが、燃料電池バスの性能が向上してくれば、高速バスとして活用することも可能だろう。燃料電池で走る高速バスに、富士山や山麓のイメージ広告をラッピングすれば、それだけでも大きな宣伝媒体になるのではないか。

  世界遺産に登録への機運が盛り上がる中、富士山にとっても優しいアプローチの仕方を本気で考えるべき時期にきている。

(山梨総合研究所 主任研究員 柏木 貞光)