まちづくりに求められる「知的基盤」
毎日新聞No.281 【平成21年2月20日発行】
今年、11月29日から3年間にわたってNHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」が放送される。近代国家の仲間入りをしようとしていた明治の日本を描いたこの作品の舞台は、伊予松山である。先日、地方シンクタンク協議会の会議で訪れる機会に恵まれた。
正岡子規、高浜虚子を生んだ俳句のまち、夏目漱石の「坊ちゃん」の舞台、路面電車が城を中心にぐるぐると走りまわり、日本最古の温泉とも言われる道後温泉が「千と千尋の神隠し」のモデルになったという入母屋造りの湯殿から湯けむりを上げている。
さて、商圏人口60万人のこのまちは、2つのデパートと個性的な中小商店が見事に共存しにぎわっていた。このにぎわいは、定住人口の規模によるものか、それとも何らかの産業基盤が支えているのか。落ち着いた町並み、統一されたサイン、整備された公共交通網、甲府で「ボロ電」峡西電鉄の路面電車が消えて47年になるが、なぜ、松山では残ったのだろうか。
地方主権の時代を迎え、全国一律、金太郎飴のようなまちづくりから、各都市が、歴史のまち、環境のまち、福祉のまち、大学のまち、文学のまちなどに挑戦している。地域の文化力を超えるまちはつくれないとよく言われるが、甲府城周辺を見る限り、まったく統一性が感じられない。
現在、ランドマークである甲府城が整備されつつあり、紅梅ビルの建設も始まっている。県民会館、情報プラザ、警察本部東別館などの取り壊しや、市庁舎、県庁舎建設が計画されていて、甲府城周辺は一変しそうである。北口も県立図書館、NHK、合同庁舎、甲州夢小路などを核に再開発が進みそうである。さらに、交流の手段としてリニア中央新幹線という国家的なプロジェクトが動き出すなど、甲府はまちづくりのラストチャンスを迎えている。
われわれはどんなまちづくりをするのか。風格のあるまちとはどんなまちか。人々をひきつける魅力はなにか、交流の核となるものは何かなど、地域住民の知的レベルやセンス(知的基盤)が試されようとしている。
(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)