新聞購買率に思うこと


毎日新聞No.284 【平成21年4月3日発行】

  いつでも、どこでも、だれでも恩恵が受けられるユビキタスネットワークの時代が近づいている。08年度版情報通信白書によると、07年末現在の日本のインターネット人口普及率は69.0%であり、多くの人がインターネットに触れ、その恩恵を受けている。
  しかし、新聞にとっては恩恵ばかりではない。新聞への接触率、接触時間の低下は、05年のNHK国民生活時間調査で取り上げられているが、新聞協会調査によると、08年の全国1世帯あたりの新聞発行部数は0.98で、この10年間で15.5%減少、山梨県でも1世帯あたりの新聞発行部数が1.00を下回る日が近づいている。発行部数減少は30~40歳代での購読率低下が主要因のようであるが、その他の調査を見ていると、若い人ほどニュースをインターネットからのみ得る傾向が強いようであり、インターネットの影響も否定できないであろう。

  インターネットからのニュースを否定はしないが、インターネットのみでニュースを得ることは気になる点がある。それは、インターネットのニュースでは、ボリュームの関係もあり、論法の展開が浅く、結論が1つである場合が多いのではないかということだ。
  ある事象というのは、関連する事象が、複数の結果を生み出していることがほとんどであるが、結論を急いだ多様性のない考え方からは大きなリスクが生まれる。たとえば、現在の医療問題であるが、これは、多くの人が、医局体制の一部と利権の関係や、医師の年収の多さに過剰に反応した結果、日本の医師が先進諸国に比べ低い年収で高水準の医療を提供していること、医局に代表される縦型の組織によって、その医療サービスが日本のすみずみに行き届いていることが理解されず、単純に体制を変更し、その体制が担っていた役割への対策がなされなかった結果とも考えられるものだ。

  複雑化する現代においては、大量の情報を得ること、情報を選択することだけでなく、多様な結果を検証する能力が求められる。新聞の購読率の回復を望むとともに、新聞には、十分な情報と、情報の統合、多様な考察ができる読者の育成を期待したい。

(山梨総合研究所 主任研究員 小笠原 茂城)