ユネスコ生物圏保護区
毎日新聞No.285 【平成21年4月17日発行】
世界遺産の陰に隠れ、あまり知られていないユネスコの活動がある。「生物圏保護区(Biosphere Reserve)」の指定、登録だ。人間と豊かな生物圏との均衡が取れた関係を進展させることを目的としたプロジェクトである。我が国における認知度は極めて低いものの、海外では広く取り組まれている。国内でももっと注目されて良い。
耳慣れない制度だが、決して新しいものでもない。1970年にユネスコの国際共同事業の一つ「人間と生物圏計画」の中で提示されたのが始まりで、以来、40年近く同計画の重要な柱となってきた。
登録要件は、豊かな自然の保全と持続的利用をコンセプトとしていくつか設定されている。しかし、厳しくなった世界遺産に比べ登録へのハードルはそれほど高くないと聞く。
海外でのこの活動への取組は活発である。昨年5月現在で、105カ国531の地域が登録されている。有名なところでは、イエローストーン国立公園、ロッキーマウンテン国立公園、ドナウ・デルタ、ケニア山などがある。お隣韓国の済州島も登録地だ。中国では、まず生物圏保護区としての指定を受け、世界遺産登録を目指すというケースも多いという。実際に世界を見渡せば、生物圏保護区の相当数が世界遺産と重複して登録されている。
実は、わが国にも登録地がある。志賀高原、白山、大台ケ原・大峰山、屋久島の4カ所だ。いずれも1980年の登録である。以来、今日まで国内の登録はない。それは、国際条約で加盟国に協力が義務づけられている世界遺産と違い、生物圏保護区には法的な枠組みがなく、後回しにされてきたことにも一因があるようだ。登録イコール観光振興の図式ができている世界遺産と異なり、注目されにくい面もあったかもしれない。このような国内での鈍い動きに対し、ユネスコは積極的な取組を勧告している。
観光振興の即効薬にはならないかもしれない。だが、コマーシャリズムから一歩離れ、自然と折り合いをつけながら真に豊かな暮らしの実践を目指す地域があってもいい。むしろ今の時代はそんな流れの中にある。自然資源を生かした地域づくりが進む八ヶ岳南麓、原生的な自然が残る南アルプス・・・本県には登録候補地としてポテンシャルの高い地域がある。
(山梨総合研究所 主任研究員 依田 真司)