県内農業存続のために


毎日新聞No.286 【平成21年5月1日発行】

  今年も笛吹市一宮地区を中心として、桃が美しい花を咲かせた。同時期に開催された信玄公祭りをはじめとする各種イベントと相まって、県内外を問わず多くの人々の目を楽しませたことだろう。
  しかし、その美しい花を咲かせた桃を含む県内農業は、今、多くの問題を抱えている。
  急速な経営耕地面積の減少、農業就業人口の減少、農業従事者の高齢化、耕作放棄地の拡大などである。

  とりわけ農地の耕作放棄地化は深刻で、農水省が4月7日に発表した耕作放棄地の実態では、県内の耕地に占める耕作放棄地率の割合は全国一である。
  県内農業は、20年ほど前までは、昭和1けた世代により安定的に維持されてきた。しかし、その昭和1けた世代の離農が急速に進み、担い手が不足している状況下では、今後このような問題は一層進行するだろう。10年、20年先を考えた場合、早急に対策を講じなければ、県内農業は崩壊することになる。
  県内農業を安定的に持続させるためには、担い手育成の取り組みを強化する必要がある。担い手の育成は、現在農業に従事している経営者を支援することも大事であるが、現在の農業従事者に占める65歳以上の割合が急速に進行している状況を考えると、若い世代の担い手育成なくしては、いかなる支援も問題の先送りに過ぎなくなる。情報提供、農地確保、初期投資、営農指導、販路確保等の体系的な支援を進めたい。

  農業とは、単に農作物を生産し、それを販売するだけのものではない。農村は景観を通じて癒しの空間となるばかりか、地域に根付く独特の文化の提供などを通じ、都市との交流の場にもなる貴重な資源である。これらが観光産業やサービス産業と密接に結びつき、県内経済に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。
  残雪のこる富士山や南アルプス、八ヶ岳と一体となって形成されていた桃色の絶景。県内には農業生産を通じて、世界中でここにしかないという景観資源が数多く存在している。その貴重な資源の保全には、大胆な支援が必要である。県内全体の問題としてとらえ、関係各機関が一体となり取り組みを進めることが重要である。

(山梨総合研究所 研究員 古屋 亮)