環境保全と観光振興
毎日新聞No.287 【平成21年5月15日発行】
今年の大型連休では、連日高速道路の渋滞状況、パーキングエリアの満杯状態が報道された。昨年に比し、ガソリン価格の低下と休日、祝日の高速料金大幅引き下げは、各地の行楽地では追い風になったものと思われる。緊急的な経済対策としてはうなずけることもあるが、良好な自然環境、山岳景観をもつ当県の観光振興にとってはマイナス面も多い。
自然環境に接近する手段としては、徒歩、自転車、自動車、公共輸送機関があり、後者になるほど多くの人がアクセスできる。特に自動車は自由性が高く、多くの観光事業者や地元住民は自然環境の中に自動車を通すことが地域振興であると考えるのが普通である。一方、自然環境は多くのツーリストが通過することによってごみくずなどが生まれ、観光事業者の看板によって景観の破壊や雰囲気などのイメージの破壊が進むのも事実である。これら自然環境の破壊の程度は社会的な規制やルールの程度に逆比例するのである。
豊かな自然環境は観光にとって必須の条件であり、自然環境を保全することは地域の持続的発展につながる。例えば、ヨーロッパ・アルプス地域では観光産業全体のグリーン化に積極的に取り組んでいる。省資源や省エネルギーの達成度、再生可能エネルギーの利用などで観光施設のグリーン度を認証するエコラベル認証システムの導入。鉄道・バスなどの公共交通機関でアクセスし、観光地内ではできるだけ自転車や電動アシスト自転車を利用する「自動車のない観光地づくり」。地域の伝統建築や町並みの保全。さらには、ソーラー・バイオマスなどの再生可能エネルギーの導入、地域環境監査の実施、地域農業の保全と農産物の商品化、環境教育の推進など自然環境保全を前面に出した観光地づくり。これら環境や景観の保全策は、地域の観光振興や地域振興に直接的にむすびつくようになっている。
環境保全、景観保全のための社会的なルールづくりには、住民や観光事業者の合意形成が必要である。自然環境へのニーズが拡大している現在、地域の住民、観光事業者の環境保全に対する理解が魅力ある観光地づくりのための不可欠の条件である。
(山梨総合研究所 調査研究部長 中田 裕久)