「祭り」と地球温暖化
毎日新聞No.291 【平成21年7月10日発行】
300年近くの伝統を誇る曳山祭りを観光するため、北陸のあるまちを訪れた。伝統的な祭りの開催時期は、毎年変わらないものだと思っていたが、期待はもろくも裏切られた。もう終わったという。ガイドブックには毎年5月中旬と記されている。
地元の方に尋ねてみると、開催日を早めたというのだ。驚くことに、理由の一つが「地球温暖化」らしい。祭りの開催時期と地球温暖化がどう結びつくのかすぐには理解できなかった。実は、5月上旬に田植えをすると、猛暑のころに、稲の実りの大切な時期を迎えることになり、米にひび割れができてしまうのだそうだ。それを防ぐため、田植えの時期を遅らせる一方、祭りの開催日を繰り上げたという。人手が要る田植えと祭りが重ならないようにとの配慮からである。
地球温暖化問題と言えば、気温や海水温の上昇、海水面の変動、異常気象、生態系の変化など様々な影響が危惧されている。しかし、どれをとってみても、グローバルなリスクばかりが叫ばれており、実感が湧かないというのが本音ではないだろうか。地球温暖化の原因は、自然界に由来するものと人為的な要因によるものとの2説があるが、人間の産業活動などに伴って排出される温室効果ガスがその主な理由とする説が有力である。したがって、地震や火山活動などによる自然災害と違い、私たち人間の力で、防ぐことが可能である。
では、私たちはどう行動したらよいのであろうか。やはり自然災害と同様、危機感をもつことが大切である。その上で、国民、事業者、自治体、国がそれぞれの役割を再度確認し、その責を果たしていくしかない。「自分は関係ない、誰かがやるだろう」では許されないのである。
地球温暖化の影響は、思いもよらないところから現れるのかもしれない。冒頭のエピソードは、地球から私たちへの危険シグナルではないか。10年後、同じ場所を訪れたら、地球温暖化で田園風景が無くなっているようなことにならないよう、今私たち一人一人が、出来ることから始めていきたいものだ。
(山梨総合研究所 主任研究員 村松 公司)