競争力としての企業文化
毎日新聞No.298 【平成21年10月16日発行】
時代とともに企業に求められる社会的責任が大きく変化してきている。国際標準化機構では、「ISO26000(組織の社会的責任ガイダンス)」を作成中であり、2010年からの成立が見込まれる。このガイダンスによると、「世界中の組織及びそのステークホルダーは、社会的に責任ある行動をとる必要性」を説き、その社会的責任の目的を「持続可能な開発、および健康や社会の繁栄に貢献しなければならない」としている。企業は、今までのような、利益の創出とその極大化だけを目指すわけにはいかないようである。
しかし現実は、厳しい企業間競争のなかで、利益追求を優先するあまり産地偽装、賞味期限切れ商品の再使用、不正郵便料金など報じられた通りである。企業の社会的責任や経営者としての倫理観、公徳心の欠如が著しいことを感じる。
それでは、グローバル化が進展し、国境を越えた企業間競争、あるいは成熟化した社会経済の中で求められる責任ある企業活動とは何であろうか。
企業が社会の一員として存在していることを考えた時、より良い社会建設への貢献こそが企業の責任であると言える。企業も社会も経済的価値感に偏った意識から脱皮し、成熟した社会にふさわしい「心の豊かさ」につながる社会を目指すことが必要である。どこの企業にも創業者が打ち立てた「信念」や「理念」がある。その意味をもう一度見つめ直し、自社の社会的価値を問い直すことが重要ではないだろうか。
こうした普遍的価値から導き出された企業文化は、強い競争力ともなりうる。効率優先の経営改善だけでは、競争相手にすぐに追いつかれることは既に分かった。企業の根本的な競争力は、営々として引き継がれてきた企業文化を経営環境にあった形に進化させ、「効率性の追求」から「独自文化の発揮」へと転換することである。また、こうした視点からの経営は、成熟社会の中で、他社との差別化につながり企業イメージを高めることにもなる。コスト競争力や技術競争力と違い、企業の長い伝統と結びついたサービス、信頼性、品質は財産であり、一朝一夕には追いつくことのできない企業文化である。これこそが真に超え難い参入障壁といえるのではないか。
(山梨総合研究所 専務理事 福田 加男)