観光と「おもてなしの心」


毎日新聞No.300 【平成21年11月13日発行】

  秋の気配が深まり、紅葉も鮮やかさを増してきた。紅葉狩りの季節到来である。以前なら、目的地に着いたにもかかわらず、見頃を過ぎ、枯葉だったという経験は誰にでもあるだろう。無理もない。観光情報源といえば、ガイドブック、観光パンフレットくらいしかなかったからである。
  今やどうであろう。全国各地のさまざまな情報が日々更新され、リアルタイムで情報収集できる便利な時代になった。また、観光情報の多様化だけでなく、発信主体にも大きな変化が見られる。インターネットの普及により、観光関係者のみならず、私たち個人のレベルでの情報発信が出来るようになった。今や旅行者の生の声が全国に向けて発信されているのである。ともすれば、観光地にとって、イメージダウンにつながる情報もあるかもしれない。

  このような現状を踏まえ、これからの観光地にとって、必要なことは何であろうか。もちろんメディアを通して、観光資源をPRすることが重要なのは言うまでもない。しかし、比較的小規模な観光地が集客、リピーターを確保しようとすれば、それだけではおぼつかない。
  私が以前訪れた、ある小さな宿場町は、まち全体が、もてなしの気持ちを持って私たちを迎えてくれる。実はこの「おもてなしの心」(ホスピタリティ)こそ、無形の観光資源であり、地域のイメージを左右する重要なキーワードとなる。
  有名な観光地や温泉地が観光客を一度は呼び寄せても、人を温かく迎える気持ちがなければ、再び訪れてくれることはないかもしれない。逆に大きな観光の目玉がなくとも、この「おもてなしの心」で迎えることができれば、来訪者の心をしっかりつかみ、地域のファンづくりにつながっていくのではないか。

  私たちが持っている観光資源「おもてなしの心」をメッセージとして伝えるために、まず私たち一人一人が、地域に愛着を持つことが必要となる。その上で、環境美化や「写真撮りましょうか?」といった声かけなど、出来ることから地域の良さを情報発信していくことが大切である。そこに小さな観光地が脚光を浴びるためのヒントが隠されているのではないか。

(山梨総合研究所 主任研究員 村松 公司)