社会保障制度の理解を


毎日新聞No.302 【平成21年12月11日発行】

  1961年に国民皆保険制度が実現してから約50年が経過した。現在、私たちは誰もが健康保険、国民健康保険などの公的な医療保険制度に加入している。だが、その内容について詳しく理解している人は少ない。せいぜい病気やケガなどで入院・通院した場合、医療費の自己負担が3割(70歳以上は原則1割、小学生就学前は2割)であるという程度だろう。

  内容を知らないために、損をしているケースは多々あると思われる。例えば高額療養費制度では、窓口での1人1ヶ月あたりの自己負担限度額が定められており、一定の計算式で算出される。70歳未満の一般的な収入(600~700万円以下)の人の場合、仮に自己負担額が30万円であれば、実際に支払う金額は9万円弱で済む。ただし、ここで「1ヶ月」とは月初から月末までを意味するため注意が必要だ。二つ以上の月にまたがる場合は分割して計算されるため、同一月内での入院の場合と比べ、支払い金額が2倍近くになることもある。つまり入院などの時期により支払い金額に差が出てしまうのだ。緊急の場合を除き、例えば月末近くに手術・入院するケースでは、病院と相談し、先延ばしするなどタイミングを図ることで、支払額を抑えることもできよう。
  また、会社員であれば傷病手当金という制度がある。病気などで3日連続して会社を休んだ場合、4日目からは最長1年6ヶ月の間、休んだ日数に対して給与の3分の2が支給されるものであり、一家の大黒柱が病気・怪我などで働けなくなっても、生活の不安は軽減される。
  これらの制度のおかげで、ある程度の貯蓄があれば、長期の入院・通院についても資金的に困るということは少ない。民間の医療保険に加入している人も多いが、場合によっては加入しないで済むこともある。

  ここでは医療保険を例に取ったが、この他にも、年金保険、労災保険、雇用保険等、わが国の社会保障制度は充実している。各制度の詳細については厚生労働省のホームページを参照していただきたいが、いずれにしても、それぞれ安くはない社会保険料を支払っているのであるから、その制度の概要についてしっかりと理解をし、自分たちの生活の中で上手く活用していく知恵を身に付けることが必要である。

(山梨総合研究所 研究員 小柳 哲史)