環境NGOの新しい形
毎日新聞No.303 【平成21年12月25日発行】
ジャパン・フォー・サステナビリティー(JFS)というNGOがある。「日本の環境に関する取り組みを世界に発信する」ことを活動の柱としている。海外から入ってくる量に比べると、日本の環境情報はあまり外に出ていかないという。そんなジレンマの解消のために、現在、世界191ヶ国に月30本の情報と、月に1度のニュースレターをインターネットを通じて発信している。「これほど包括的に日本の環境情報を英語で読める情報源は他にない」と海外からの評価は高い。
このNGOの常勤のスタッフはたったの4人である。環境情報の収集、和文・英文作成、ウェブページ作成、メール発信など決して少なくない業務の多くを担うのは約500人のボランティア達だ。
私もボランティアの1人であるが、実は、他のボランティアの人たちをあまり知らない。つい最近までスタッフとさえ面識がなかった。それは、たいがいの作業がEメールのやりとりで足りるからだ。JFSはいわばウェブ場に形成されたコミュニティなのである。
普段は顔の見えない仲間たち。しかし、向いている方向は一つだ。「世界に発信することで世界を、日本を動かそう」そんな使命に共感しつながっている。ボランティアは、活動の一端を担うことで、大きな達成感も得られる。自分が集めた情報、書いた記事あるいは訳した記事がウェブに乗り世界に発信されていく。その過程では、文章や翻訳のスキルを上げ、知識や視野を広げることもできる。JFSの発信する情報は、全国に散らばる人々の「思い」と「自己実現」の集成なのである。
先日、東京で国内最大級の環境展示会エコプロダクツが開催された。JFSは、そこで展示ブースの他に外国人向けの案内デスクを担当し、場内のツアーを企画・運営した。スタッフやボランティアにとっては、数少ない顔合わせの機会でもある。私もツアーのサポートをした。初対面の仲間ばかりであったが、価値観を共有し、競争も損得勘定もない人の輪の中にいるのは窮屈ではない。
強い思いはある。だが繋がりはゆるやかで自由。そんな新しいコミュニティが、社会を動かす力の一部になっていると感じる。
(山梨総合研究所 主任研究員 依田 真司)