応募してみませんか「清里文学賞」
毎日新聞No.306 【平成22年2月5日発行】
八ヶ岳南麓には文化的な雰囲気がある。宮沢賢治と保坂嘉内(韮崎市出身)の親交はよく知られている。夜行列車が闇の中を一筋の光の帯となって天空に昇っていく「銀河鉄道の夜」は八ヶ岳南麓の景である。また、アルペンホルンが風に乗って聞こえてくるような広々とした牧場、清泉寮の赤いとんがり帽子の屋根のある風景は、まさに、文化・芸術を生み出す「ゆりかご」である。
このほど萌木の村は「清里文学賞」を創設した。募集要項はインターネットで広報されているが、小説部門とプロット部門に分かれ、八ヶ岳高原や清里を舞台にした小説であれば純文学でもエンターテイメント、SF、ファンタジー、ミステリーでもジャンルは自由である。しかし、活字離れが進み、出版不況といわれている中で、なぜ今「清里文学賞」なのだろうか。「携帯小説」や、鳩山由紀夫総理も始めたという140字以内で書き込み自由な「ツイッター」というメディアを使った「ツイッター小説」など、人々のニーズはより短いもの、より簡便なものにシフトしている。
だが、40年ほど前、清里は、女性誌「アンアン」、「ノンノ」に取り上げられ、ペンションブームが起こり、東京の原宿を持ち込んだような町並みが軒を連ねた時代があった。ところが、夢ははかなく崩れ去り、廃墟となったペンションがあちこちに点在する清里が残った。そして、物まねや借り物ではない本物の清里づくりが問われている。持続的な観光地づくりには薄っぺらなものではなく、深み、いわば文化力ともいえるものが求められる。1990年にスタートした「清里フィールドバレエ」は21年目を迎えすっかり清里文化として溶け込み、地域の宝となってきた。文学賞には、太宰治賞、松本清張賞、江戸川乱歩賞、坊ちゃん文学賞などいろいろある。編集者会議では「清里・銀河鉄道文学賞」「清里・ポールラッシュ文学賞」といった魅力的なネーミングが話題にのぼった。「清里文学賞」をフィールドバレエのように八ヶ岳南麓・清里の魅力をつむぎだす文化力として育て上げていきたいものである。
(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)