しなやかな香港
毎日新聞No.307 【平成22年2月19日発行】
昨年の暮れ、3年ぶりに香港を訪問する機会があった。97~98年のアジア通貨危機を乗り越え、今回の世界金融危機の影響も軽微であり、繁栄を謳歌していた。
香港は、イギリス統治時代から積極的放任主義の下、すこぶる自由度が高く規制は緩やかで、経済活動は相変わらず活発である。昨年10月には香港島内で、アジア最高額のマンションが売買された。530平方㍍で51億円である。こうした高額マンションの売買が成立している事実は、香港経済の好調ぶりを示している。
規制の自由度で言うと、会社設立は非常に簡単である。会計事務所などが多数の会社(シェルフ・カンパニー)を登記しておき、会社設立希望者が来るとその会社を売る。起業家は、こうした会社を買取ることにより、わずか3日程度で企業活動が可能となる。また法人税率は16.5%、受取利子・配当・譲渡益は非課税など、起業家や投資家にとっては活動しやすい環境にある。
繁栄の果実として一人当たりのGDPも急上昇している。国際貿易投資研究所によると、95年と直近の08年比較で、日本は、4万1833㌦から3万8563㌦とマイナス3270㌦である。一方、香港は、2万3211㌦から3万0873㌦とプラス7662㌦である。
今回お世話になった香港の知人は、夫婦・子供二人の四人家族、これにメイドさんが二人である。平均的な日本人の生活観とはかけ離れた生活を送っている。
身近なところにも果実はある。チェクラプコク空港内のトイレ設備が更新され綺麗になっていたり、金融街や住宅街の歩道が洗浄され気持ち良く歩くことができたり、路上で金品を当てにする人が居なくなったりと、彼らの生活水準が向上していることを実感した。
香港はその歴史を見るとアヘン戦争、イギリスの統治時代、日本の占領時代、そしてまたイギリスの統治時代を経て、97年の中国返還という激動の連続であった。まさに国際秩序の中で翻弄されてきた歴史がある。しかし、その都度、香港は自らの生きる道を模索し、知恵を出し、努力し繁栄を手に入れたのである。こうした香港の「しなやか」で「したたか」な戦略は我々も学ぶべきものがある。
(山梨総合研究所 専務理事 福田 加男)