自治体アンテナショップ「走れ宮バス」
毎日新聞No.308 【平成22年3月5日発行】
「走れ宮バス」― お隣の静岡県富士宮市役所が発表した、全国でも珍しいコミュニティバス(以下「コミュバス」)応援歌のCDタイトルである。市街地を循環するコミュバス「宮バス」の利用促進のために、担当職員が自費制作したもので、今後は市内のイベントや幼稚園などでも披露される。今では、コミュバス先進地の富士宮市だが、そのきっかけは、3年ほど前にさかのぼる。民間バス会社から「路線バス5路線を廃止したい」と連絡があった。通常であれば補助金の増額により、路線バスを存続させるが、富士宮市では民間の競争原理や住民の参加を促す方式を1年かけて検討した。その結果が、「宮バス」であり、交通不便地域と市内中心部をデマンド型タクシーで結ぶ「宮タク」であり、バス停へのネーミングライツ(命名権)の導入などであった。これらの取り組みにより、支出の抑制と公共交通に対する市民満足度の向上に成功した。
山梨県内において、今年、いくつかの自治体で、新たにコミュバスなどを導入する。最寄り駅と市内中心部を、定時定路線で結ぶ方式。複数ある交通不便地域で段階的にデマンド交通を導入する方式。地域の特性や住民ニーズの違いによって、方式は様々である。
全国的な状況として、地方の公共交通は、「収益事業」から「慈善事業」へと変化している。山梨県内の自治体が運営するコミュバスなどの収支率(収入額を運行経費で割った数値)の平均は、21%(山梨総研調べ)と低い。今後も、自治体の公共交通維持のための支出は増大するだろう。このような中でコミュバス先進地では、地域住民が検討会を作り、路線やダイヤの設置・見直しを行い、コミュバスを育てようとしている。また、コミュバス運行地区の住民が回数券などを購入し、金銭的に協力するといった地域もある。行政が積極的に関与する「行政主導型」から、地域住民が積極的に関与する「住民参加型」に変化している。右肩下がりの時代、地域に根付く路線となるには、地域住民による協力は不可欠である。
山梨でも、走れコミュバス!
(山梨総合研究所 主任研究員 斉藤 七二)