農業担い手確保に期待


毎日新聞No.313 【平成22年5月14日発行】

  就農定着支援制度が始まった。この制度は、果樹農家の担い手確保に向け、就農希望者が熟練の農業者の元で栽培技術や農業経営などを学ぶもので、県が実施する。今回この支援制度が受けられる就農希望者は23人と少数ではあるが、担い手確保の取り組みへの第一歩として評価したい。

  本県で栽培される桃やブドウなどの果樹は、味、色、形ともに世界のどの市場に出しても評価される一品である。単なる農産物というよりは、芸術品といっても過言ではない。この芸術品を生み出す技術は、数年単位ではなく、数十年にわたる改良を繰り返してきた生産者の努力の結晶である。生産物一つ一つに生産者の歴史、つまりストーリーが詰まっている。その技術は簡単には継承できないだろうし、何より長い年月をかけて築きあげた技術を新規就農者に伝承することには抵抗があろう。しかし、伝承していかなければ、作り上げた歴史は確実になくなってしまう。いわば本県の貴重な資産をこのまま途絶えさせてしまうのはあまりにももったいない。
  言うまでもなく、農業は、単に農業生産物を生産するだけのものではない。自然景観の保全や、その景観を通じ都市との交流の場になる。豊富な自然や果樹を求めて多くの観光客が県内を訪れる。観光などのサービス業と結びつき県内経済に大きな影響を与えている。
  そういった意味では、担い手が減少し農業が衰退すると、農業技術が途絶えると共に、県内のイメージや経済にも大きな影響が出ることを認識しなければならない。今回の支援制度は、今まで多くの先人達により作り上げられてきた本県の農業の歴史だけではなく、県内経済を守るという側面も持っている。この支援制度を受ける就農希望者、また指導する農業者は誇りを持って取り組んで欲しい。

  農業の担い手確保には、今後とも農地確保、技術指導、経営指導、販路確保に対する継続的な手厚い支援が必要であるが、まずは、この支援制度を受けた就農希望者全員が、農業経営者として独立、定着してほしい。そして、この支援制度を始まりとして、地域全体で担い手を育成するような動きが広がっていくことを期待したい。

(山梨総合研究所 主任研究員 古屋 亮)