海の向こうの特別な友達


毎日新聞No.321 【平成22年9月3日発行】

  アメリカの小さな町に暮らす人々の優しい笑顔は、子供たちの目にどう映っただろうか。南アルプス市の姉妹都市交流プログラムに引率として参加し、中学生9人と米国アイオワ州マーシャルタウンを訪れた。大きな違いのある自分たちを家族のように受け入れてくれた人々との思い出が、子供たちの心に深く刻まれたことと思う。
  引率の大人3人を含め中学生全員が1人ずつ、ホストファミリーの家にお世話になった。たった11日間だが、ずっと現地の家族と寝食を共にし、日中も同世代の米国人と一緒である。とても密度の濃い日々であったに違いない。始めは日本人同士で集っていた子供たちが、時間の経過とともに打ち解け、アメリカの中学生たちに混じり合うようになっていった。片言の言葉でも、相手のことを理解することはできる。思いを伝えるのは言葉だけではない。最終日の空港では、目に涙を浮かべお互いに別れを惜しむ姿があった。

  私自身も、初めてのホームステイだった。まるで古くからの友人のように接してくれた家族には感謝してもしきれない。10日以上も素性の知れない中年外国人男性を自宅に住まわせるには相当の勇気がいる。それがたとえ子供であっても、言葉も文化も全く異なる人と生活を共にするのは大変なことだ。それを進んで引き受けてくれる人々がアメリカには多くいる。相当数の難民を受け入れ、途上国の子供を養子として家族に迎え入れることさえも珍しくない国である。常に「違い」を受容してきた懐の深さを感じずにはいられない。
  銃、犯罪、差別、格差。そんなネガティブなイメージが先行して伝えられるアメリカ社会は、実は、とても穏やかで、公平で、広い心を持った人々であふれている。子供たちには、自分の目で見て肌で感じた日常のアメリカを伝えていってもらいたい。

  帰国の日、空港に向かう車窓の外には、前夜の雨で鮮やかさを増した緑の大地が地平線まで広がっていた。半球をすっぽりと包む広大な青空に映え、ことのほか美しかった。遠く離れた美しい大地にすばらしい友人がいる。そんな記憶の種がいつか芽吹き、花開いてくれることを願う。

(山梨総合研究所 主任研究員  依田 真司)