新しい湯村を演出


毎日新聞No.324 【平成22年10月15日発行】

  老舗旅館やホテルの閉館が目立ち湯村温泉郷の面影は失せつつあるが、このほど湯村を元気にしようと三つのプロジェクトが動き出す。

  一つは「山梨文学シネマアワード(賞)」。湯村は井伏鱒二、太宰治、松本清張、山口瞳ら多くの文人が訪れたところだ。江戸川乱歩や横溝正史の挿絵画家・竹中英太郎記念館もあり、映画化された作品も多い。この企画は、厄除け地蔵尊祭に合わせてゆかりの映画を上映し、映画人たちを招く。併せて文学の道散策ツアーも実施するというものだ。
  もう一つは「リヤドロ・ミュージアム」。来年1~3月にかけて常盤ホテルを舞台にリヤドロジャパンがミュージアムを開催する。リヤドロはスペインの高級陶器人形のブランド。エルミタージュ美術館やブリュッセルの王立美術館など名だたる美術館が所蔵・常設展示している名品である。日本では東京銀座に出店しているが、地方のホテルでミュージアムを開催するのはきわめて異例のことだ。先月27日、リヤドロジャパン会長ジェローム・シュシャンご夫妻が来県、記者発表しており、全国的な話題になりそうである。
  三つ目は、チョコレートのゴディバがバレンタインデーにあわせて甲府富士屋ホテルでゴディバ・パーティを開催する。ゴディバ・ジャパンの社長でもあるジェローム・シュシャン氏は「グローバルとローカルの結びつきこそ地域再生の切り札である」と話したが、実はいずれのプロジェクトも仕掛け人は小松沢陽一さんだ。財政破綻した炭鉱の町夕張を再生しようと映画人と映画ファンが集う「夕張映画祭」を創設したチーフプロデューサーである。現在、武蔵大学・東北芸術工科大学客員教授で、山梨総合研究所の特別研究員でもある。小松沢さんは、発光する力を失ってしまった地域資源に光を当て、まったく異質の資源を丁寧に結びつけていくことによって、新しい地域価値を生み出そうとしている。そこには小松沢さんが丁寧に紡いできた人脈と人間模様が垣間見える。カネやモノを優先した金融資本主義的な発想ではなく、集う人が互いに刺激しあい、価値を増幅させ、楽しみながら地域に新しいエネルギーを植えつけていく。誰にでもできる芸当ではない。黒子に徹している小松沢陽一さんは「地域に夢をプロデュースする人」のようである。

(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)