電子書籍元年
毎日新聞No.327 【平成22年11月26日発行】
国民読書年の今年は、電子書籍元年とも呼ばれ、読書の在り方を変える大きな動きがある。アマゾンのキンドル、アップルのiPad、日本からはNTTドコモ、大日本印刷など複数企業が電子書籍市場への参入を表明、市場が急成長している。
電子書籍により、ワンクリックで24時間365日、好きな本を購入し読書が可能となる。本の表紙を裁断し、バラバラにしたページをスキャナーで読み込み、電子書籍を作る「自炊」や、みんなで一緒に読書が出来る「ソーシャルリーディング」など、紙の本にはない、まったく新しい読書体験が可能である。
国立国会図書館では、書籍の電子化が進められ、既に15万6000冊が終了し、ホームページで公開されている。今年度末までに、更に80万冊の電子化が予定され、将来的には、計400万冊が電子化されるという。データ検索だけでなく、閲覧もできるよう検討が進められており、実現した場合、出版社、書店、図書館への影響は大きい。
毎日新聞が実施した「第64回読書世論調査」によると、実際に電子書籍を「読んだことがある」人は1割にとどまっている。読んだことがない人に読みたいかどうかを聞いても「思わない」が8割近くに上り、電子書籍に抵抗感を持っている人が多い。その理由を見ると、「紙の本に愛着があるから」が最も多くなっている。
本には読者の価値観や人生観を変える力がある。貸出件数、蔵書数、図書購入数で、日本一三冠を達成した中央市では、複数のボランティアグループによる読み聞かせ、児童への絵本の贈呈など、読書への関心を高める様々な取り組みが行われている。
紙の本に愛着のある日本人に、電子書籍がどこまで浸透するかは分からないが、紙の本には出来ない新たな読書体験には大きな価値がある。極端な例ではあるが、アメリカの、ある科学者は電子書籍普及に伴い、紙の本は今後5年以内に姿を消すと予測している。
紙と電子、一長一短はあろうが、共通するのは人生を変える本との出会いを与えてくれることだ。選択肢が広がることは喜ばしい。電子書籍の今後の展開に注目したい。
(山梨総合研究所 主任研究員 矢野貴士)