「未来公益」とは何か


毎日新聞No.333 【平成23年3月4日発行】

  ある青年と語る機会があった。彼は大手商社をスピンアウトしたあとネットビジネスなどを展開しながら、07年にNPO法人を立ち上げている。名刺には「未来公益」を追求する、とある。「未来公益」とは一体なにか。設立趣旨には、まじめに日本を元気にする「志」の集いを築くこと。「『過去』を、先人たちの歩みとしてわたしたち世代なりに正面から受け止めること。『今』を、自ら働きかけて反応を確かめる対象として主体的にとらえること。『未来』は、我々が果たすべき責任の結果であり、次の世代に残す意思であると心に刻むこと」とある。さらに、メンバーの信条として、①私利私欲でないこと②次世代のこと、未来のことを意識して行動すること③創造的、感動的であること④楽しんでやることなど7項目が掲げられている。

  振り返ってみると、我々の時代は、自分のために努力すること、すなわち「利己」が、企業発展につながり、経済社会の発展を生み、豊かで幸せな世界をつくると信じてきた。しかし、非正規社員の急増などによって年功序列、終身雇用といった社会システムが音を立てて崩れ、地域コミュニティー、企業コミュニティーが薄弱化し、現在の延長線上に真の豊かさを見いだせなくなってきている。

  こうした状況に直面し、彼らはネットワークを広げながら社会が抱える課題の解決に向かうこと、すなわち「利他」の中に自己実現の場や新たな雇用や生きがいを生み出し、地域社会の発展につなげていこうとしているのではないか。新たな公の担い手として、また、今まで見捨てられていたニッチ市場に光を当てることによって新たな価値創造社会を生み出そうとしているように見える。県内においても農・林や環境・健康・観光などさまざまな分野で若者の挑戦が始まっている。このほど地域再生大賞の特別賞に選ばれた早川町の「日本上流文化圏研究所」の活動も「新しい公共」への一つのモデルといえるのではないか。ソーシャルビジネス、社会企業家という概念も生まれている。「未来公益」とは何か。世代を超えた議論が求められている。

(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)