大切にしたいスポーツ文化


毎日新聞No.334 【平成23年3月18日発行】

 先月14日、内閣府が10年の名目国内総生産を発表した。それによるとGDPは5兆4742億ドルとなり、中国の5兆8786億ドルを下回った。68年以来守り続けた経済大国2位の座を中国に明け渡すことになった日である。こうした中、ちまたは国内市場の収縮・長引くデフレを嘆き、なんとも憂うつで、不安感を払拭できないでいる。

  こんな時、スポーツ界に目をやると少しは明るい気分になる。1月のアジアカップ戦では、ザッケローニ監督に率いられた日本の選手たちが4度目の優勝を成し遂げた。技術的な要因もさることながら、今回の活躍は伝統的な「和」の精神が支えとなり、私たちサポーターも含め心が一つになったことも勝因の一つといえる。ちなみに、決勝の豪戦は深夜の中継にもかかわらず関東地区で平均視聴率は33.1%であった。関心の高さを示している。そして今月5日にはヴァンフォーレ甲府が4年ぶりにJ1で戦い、敗れはしたがスタジアムはちまたの閉塞感を感じさせない熱いファンで埋まった。
 明るくさせてくれるスポーツは他にもある。正月の風物詩ともなった箱根駅伝である。直接、箱根の地に出かけ応援するようになり3年がたった。今ではすっかり箱根駅伝のファンである。あの厳しい山登りコースである宮ノ下に陣取り待つこと4~5時間、選手が走り去るのに15分くらいであろうか。わずか15分程度の応援であるが、宮ノ下の応援はユニークである。地元商店街の方が音頭を取り、選手個々の名前で応援するのである。大学は関係ない。一に選手個人に対する応援がここの伝統となっている。選手は、特別な応援の中を颯爽と走り去っていく。そして彼らの表情が実に素晴らしい。私が、箱根駅伝の虜になったのは、「走り」にかけた選手の一途な気持ちが表情や後ろ姿に表れているからである。その姿が私たちに「頑張ろう」と訴えかけているように思えるからである。サッカー選手や駅伝選手の活躍を目の当たりにし、なんと清々しい気分に浸り勇気付けられることか。

  今回、歴史上まれに見る大震災に遭遇し、また原発事故は収束の様相もなく不安が増している。今こそ、スポーツ選手の一途な気持ちに習い、不撓不屈の精神で力を合わせることが私たちに求められているように思える。

(山梨総合研究所 専務理事 福田 加男)