シェア(共有)という発想


毎日新聞No.336 【平成23年4月15日発行】

 個人でモノを所有せず、グループ内で共有する「シェア」という考え方が、浸透しつつある。
 シェアの代表例として、国内のカーシェアリングを見ると、これまで社会実験の域を抜け出せないでいたが、近年はビジネスとして参入企業が現れている。レンタカー大手のオリックス自動車は、会員制のカーシェアリング事業に早くから参入、会員数が大幅に増加している。
 県内でも、自動車リース・レンタルのユニオックスが、甲府市中心街の再開発ビル「ココリ」と同社の2カ所にステーションを設け、カーシェアリング事業を開始した。
 車に関心を持たない若者が増えており、「所有」から「利用」へ人々の意識に変革が起きている。

  シェアはモノだけにとどまらない。インターネットの普及により、同じような目的を持った人々が集まり、時間や空間、技術など、目に見えにくい資産についてもシェアが進んでいる。
 神戸市の「カフーツ」ではコ・ワーキング(協働)の考え方に基づき、オフィスと情報をシェアしている。カフーツでは、個々に独立した会員事業者が、作業スペースを共有することによって、互いの情報と知恵についても日常的に交換することが可能となっている。
 例えば、カフーツでは戦後最悪の惨事となった東日本大震災を受け、「ミーツ神戸~被災者のために今我々が提供できる支援はなにか~」と題する会合が開催されている。メンバーの中には、阪神淡路大震災の惨禍に見舞われた方もいるため、その経験を踏まえ、支援のあり方を検討し、ツイッターを通じ情報共有、情報発信を行っている。

  レイチェル・ボッツマンは著書「シェア<共有>からビジネスを生みだす新戦略」の中で、ビジネスにおけるシェアの重要性を指摘しており、今後は何を所有しているのかではなく何にアクセスできるのか、どうシェアするのかが重要だと述べている。
 これからの日本復興に向けては、日本人一人一人の意識改革が求められる。「私のものはあなたのもの」と考える、シェアの発想が今こそ有効ではないだろうか。

(山梨総合研究所 主任研究員 矢野 貴士)