「命名権」ビジネス
毎日新聞No.337 【平成23年4月29日発行】
「ネーミングライツ」という言葉をご存じだろうか。主にスポーツ施設や文化施設などの命名権を企業などに売却することであり、すでに導入例は100を超えるなど全国的に広がりを見せている。山梨県でも、06年に韮崎市文化ホールが「東京エレクトロン韮崎文化ホール」となり、今年3月1日には小瀬スポーツ公園陸上競技場が「山梨中銀スタジアム」、4月1日には県民文化ホールが「コラニー文化ホール」という愛称となった。
対象となる施設は公共施設が多く、自治体は企業から安定的な収入を確保でき、またスポンサーとなる企業は自社のPRとCSR(企業の社会的責任)の観点から認知度の向上と企業のイメージアップが図られ、双方にとってメリットがあると考えられている。
ネーミングライツを地域活性化の起爆剤にと考えている自治体も多いが、なかなか成功事例は見当たらない。一番の問題は、企業側にとって多額な費用がかかる割に思ったほどの効果があげられないことである。ネーミングライツもビジネスである以上、企業としては費用対効果の観点から、契約更新を見送るケースも今後想定される。
静岡県富士宮市では、市内を循環するコミュニティバス(「宮バス」)のバス停オーナー制度としてネーミングライツを導入している。バス停オーナー(個人病院、ショッピングセンター、温泉など)は1月当たり15,000円のネーミング料を支払うが、バスの車内放送や市のホームページ、チラシ・ポスターで紹介されるためPR効果は大きい。また市はオーナー施設を考慮してバスルートを策定するため、顧客が増える。もちろん市民にとってもバスが非常に便利な公共交通として機能している。自治体・企業・市民の各ステークホルダー(利害関係者)がメリットを共有している好事例である。
厳しい地方財政における自治体の新たな収入確保策として、ネーミングライツは確かに有効である。今後は命名権の売却にとどまらず、スポンサー企業に対してどのような価値・サービスを提供できるのかという視点で考え提案していくこと、お互いのメリットを高めるために最大限の工夫をすることが、自治体の役割として求められている。
(山梨総合研究所 主任研究員 小柳 哲史)