農業労働力の確保を急げ


毎日新聞No.338 【平成23年5月13日発行】

  福島原発問題に起因して茨城・千葉・群馬・栃木県産の野菜を中心として広がる風評被害は終息する気配を見せていない。
  この風評被害とともに、これら地域では外国人研修・技能実習制度を利用し農業に従事していた外国人研修生・実習生の大量帰国による労働力不足問題が顕在化している。

  外国人研修・技能実習制度とは、原則として3年間日本に滞在し、日本の先進的な技術・技能・知識を学び、開発途上国の人づくりに寄与することを目的としているが、農家にとっては不足する労働力を安定的に、また低賃金で補うことが可能であり、この10年の間に研修生・実習生の数は大幅に増加していた。そして、特にこの制度を利用し農業経営を展開していたのが茨城・千葉・群馬・栃木県をはじめとする関東地方の野菜栽培であった。
  東京をはじめとする首都圏の大消費地に、安定的に低価格な野菜を供給していたのは、外国人研修生・実習生に労働力を依拠した農業経営が支えていたともいえる。
  放射能による風評被害が早期に終息しなければ、これら地域での農業生産もままならないが、一度離れた外国人研修生・実習生を再び確保できる見通しは不透明となっている。 
  外国人研修・技能実習制度は、3年しか日本に滞在できないため、外国人研修生・実習生に労働力を依拠し農業経営を展開していくには、継続的に研修生・実習生を確保しなければならない。しかし、途上国の経済発展により日本との賃金格差がなくなり、また日本の技術・技能・知識が移転してしまえば、この制度を利用し来日する外国人研修生・実習生は不足し、労働力の確保ができなくなり農業経営が成り立たなくなるという構造的な問題は、すでに指摘されていたことである。労働力が不足し農業生産力が低下すれば、今後、慢性的な野菜の供給不足、価格上昇という形で消費者に負担がかかるかもしれない。

  震災を契機として顕在化しつつある農業労働力不足の問題は、風評被害の終息とともに早急に着手しなければならない課題である。

(山梨総合研究所 主任研究員 古屋 亮)