「想定外」災害に思うこと


毎日新聞No.339 【平成23年5月27日発行】

  3.11の大地震・大津波・原発事故を境にして、平穏な日常生活から一変して混乱状況に陥ったように感じた人が大多数であったと思われる。現在でも、「想定外」の事態に対して、政治・経済・社会は大いに混乱している。

  3.11の原発事故を契機に、ドイツではいち早く脱原発を決定した。菅首相は2030年までに、原子力発電の割合を50%にするという日本のエネルギー基本計画を見直し、原子力に加え、再生可能エネルギー、省エネルギーの推進を新たな柱にするという意向であるという。エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法に基づき政府が策定するもので、昨年6月に最新の計画が閣議決定されたものの、1年足らずで計画が見直しされることになる。また、5月24日の報道では、経済産業省は「サンライズ計画」構想を発表。太陽光発電の普及に向け、再生可能エネルギーの技術開発を進め、2020年の発電コストを現在の3分の1に、2030年では6分の1と火力発電並みとする。また、設置可能な屋根に太陽光発電を導入することによって、2030年に現状の15倍にするという構想である。
  「想定外」の事態を受け、泥縄式の対策のような気がしないではないが、今回の事故は国内外の大きなリスク要因になっており、国内問題として処理しきれない状況になっていることを思えばやむを得ない。そうであれば、原発事故の対応を1民間企業や現場の責任に委ねてしまっているような印象をもたれるのも、問題なしとはいえない。少なくとも、福島県内に対策本部や情報センターを置き、国内外の関係者を集め、放射線量の調査研究、原発関連の総合対策や支援活動に当たるような覚悟が国には必要である。

  福島県いわき市の知人によれば、いわき湯本温泉旅館は当初は被災者への救援物資の配送所として、現在は原発関係者の宿泊施設として利用されているという。連日の被災地のニュースで、美しい風景とともに、地域生活が喪失しているのを目にすると、私たちの喪失感も深まる。他方、地域住民やボランティアの復興に向けた活動を目にすると元気が湧く。工程表どおり、原発事故の対策が進み、福島県が平静となることを願うばかりである。

(山梨総合研究所 調査研究部長 中田 裕久)