大震災が問いかけるもの


毎日新聞No.340 【平成23年6月10日発行】

  俳人「福田甲子雄展」が氏のふるさと白根桃源美術館で6月末まで開かれている。

    枯野ゆく葬の使者は二人連れ   
        ふるさとの土に溶けゆく花曇   甲子雄

  震災直後だったからか。こんな句が目に飛び込んできた。津波で全滅した陸前高田、気仙沼、放射能汚染に苦しむ福島、飯館などの惨状が浮かび、一瞬にして家族も、住まいも、働く場所さえも失ってしまった被災者の叫びが胸に突き刺ささってきた。
  地震が起きれば津波が発生する、海岸に建設した原子力発電所がその被害を受ける。しかも1896年の明治三陸地震の津波は38mを超えていたというから想定外とはいえない。完全な安全などないだろうが、燃料棒の溶融、漏れ出すプルトニウム、国民は解決のすべもなく祈るような気持ちで成り行きを見守っている。
  我々は経済的な豊かさを得んがために開けてはならないパンドラの箱に手をかけてしまったのではないか。失われたストックは15兆円から20数兆円、被災地域もきわめて広域である。これまでの発表によると、死者・行方不明者は2万人をはるかに超えている。東京大空襲では8万人。関東大震災では10万5千人、広島原爆では14万人が亡くなっているが、これらの数字を見るにつけ自然の脅威と戦争の悲惨さを痛感せざるを得ない。
  特に、今回の震災は放射線量という目に見えない怪物が立ちはだかっているだけに復興への気力もなえがちである。ようやく「復興構想会議」が立ちあがり、新しい国づくりの議論が始まったが、1000兆円に及ぶ国の借金、放射能に汚染された国土、漁場。安全と高品質が売り物であった日本製品のブランドまで失墜させてしまった。

    子に学資わたす雪嶺のみえる駅   甲子雄

  雪の安達太良山を望む駅で大学に通う息子に渡す学資、貧しくとも次代に託す夢と希望が見えてくる。我々は次代に何を用意するのか。国民一人ひとりが暮らしと社会の仕組みのあり方を根本から問い直さねばならない。

(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)