環境首都憲章に思う


毎日新聞No.341 【平成23年6月24日発行】

 最近、鹿児島市と松山市のご夫妻が山梨の地を始めて訪れた。どちらの地も海があり、山があり美しい青空があるまちである。つまり山梨と同じく自然がいっぱいの地方都市の一つである。その彼らが勝沼ぶどうの丘から甲府盆地を眺めて異口同音に「想像していたよりずっと大きな盆地。そして雄大で素晴らしい」と感想を述べ、この言葉にハッとさせられた。
 甲府盆地の特徴は、複数の河川が周囲の山々から流れ出て、その川の浸食作用によって扇状地が造られた合成扇状地である。そして、日本の扇状地の代表例として挙げられる。

 ところが周囲を2~3,000m級の山々に囲まれている為、住んでいる我々は首都圏に近いにも拘らず「交通の便が悪く、県民性は閉鎖的。しがらみが有り生活しにくい」と負の印象が強く、盆地の優位性に気づいていない。四季折々、周囲を見回してみると素晴らしい地に住んでいることを実感できる。晴れた日には山の稜線と空のスカイラインがくっきりと見渡せる。雨の日には霞む山並みが幽玄な景観を醸し出し心が落ち着くのである。
 ところで山梨県は全国に先駆け、平成5年に「山梨県環境首都憲章」を制定、県議会においても「環境首都・山梨づくり宣言」を決議している。これは自然との共生を基本とした持続可能な社会の構築を目指したものである。そして今年、甲府商工会議所では「甲府地域グランドデザイン実施計画」を作成中であり、この中で「自然環境、地域経済、住民の暮らしの調和によって、県民が健康で、豊かで、快適さを感じる社会の構築を目指す」ことを基本理念としている。

 東日本大震災を契機に私たちはまちづくりや生活様式に対する考え方を改めざるを得ない状況にある。幸い、山梨県民は自らの強みを活かした地域づくりを模索してきている。それは循環型の経済システム、持続可能な社会であり、山梨が誇りうる地域特性を活かした防災、エネルギー、ビジネス、教育、首都機能代替など県民生活の質的向上に資するような「環境首都」づくりを推進することである。盆地という貴重な大自然に抱かれ、その恩恵にあずかっていることに思いを致し、今こそ山梨環境首都憲章を空虚な文言に終わらせないためにも私達の行動が求められている。

(山梨総合研究所 専務理事 福田 加男)