Vol.156-1 東北復興支援の市民研究会活動「はがき商品券」の挑戦


江戸川大学社会学部 教授 鈴木 輝隆
(甲府市在住)

はじめに

 東日本大震災は現在の生活を見直すことになったとだれもが語る。これほど大きな災害復興には、国や自治体の力がなくなってきたと言っても、公的な機関に頼らざるを得ないが、市民研究会として何かできないかと話し合った。ローカルデザイン研究会では、東北からゲストとして来ていただいた講師の方や仲間、さらに現地視察でお世話になったこともあり、東日本大震災の支援を3月13日から行い、5月13日から、東北が親戚になる「はがき商品券」を販売し、精神的かつ経済的な支援を行なっている。

ローカルデザイン研究会について

 「はがき商品券」の活動の背景となるローカルデザイン研究会について説明にしておきたい。研究会は2003年4月に誕生し、11年7月には90回目を迎えた。毎月1回、東京で、江戸川大学の鈴木研究室のゼミ生が中心に運営を行い、参加者は市民はじめ、地方や国の行政関係者、研究者、マスコミ、コンサル、一般企業の社会人、他大学の学生・院生等で、延べ6500人を超えた。発足は当時の経済産業省課長から、「東京で地域活性化の研究会を作りませんか」と提案があり、大学という狭い世界を超えて、意欲のある他大学生や社会人から影響を受ける場を作りたかったこともあり始めた。自己決定できる自立した活動を行うために、助成金などは申請しない方針で、ゲストスピーカーは、研究者、公務員、新聞記者、編集者など世話人のツテでお願いし、謝礼は交通費プラス地域の産物程度とした。
 研究会の名前を“ローカルデザイン”としたのは、地方の活性化には、地域の資源化による個性ある魅力的な「ローカルデザイン」が必要と考えたからである。
 第1回目は、JR九州の新幹線をはじめ車両のデザインを手がけ話題となっている水戸岡鋭治さんにお願いした。これまで招いた講師は、世界的に活躍するデザイナーの原研哉さん、全国でローカルブランドを次々と誕生させている高知のデザイナー梅原真さん、相田みつを美術館長の相田一人さん、俳優で農業を実践している永島敏行さん、長野県の小布施堂社長の市村次夫さん、島根県石見銀山の松場登美さん、北海道ニセコ町長の片山健也さん、商店街再生で評判の香川県高松市丸亀商店街古川康造理事長さんら多彩な顔ぶれである。この7月には阪神大震災時に大震災復興市民まちづくり支援ネットワークを作り活躍された、神戸山手大学現代社会学部教授の小林郁雄さんをお呼びすることにしている。
 研究会の社会人と学生でゼミ合宿も行っている。08年は社会人だけで、ゲストの現場を訪ねる東北ツアーを行い、一関市の世嬉の一酒造や遠野市の多田自然農場、「森は海の恋人」運動で知られる宮城県気仙沼市のカキ養殖家、畠山重篤さんの養殖場を訪ねるなどした。09年9月には、長野県駒ケ根市中沢地区から地域活性化の要請があり、社会人と学生でチームを組み現地調査を行った。この取り組みは地元メディアでも取り上げられた。地元住民の地域再発見と地域づくりへの意識が高まっただけでなく、参加した学生たちの問題意識がクリアになった。この事業はその後、県のモデル事業として表彰されだけでなく、新住民3家族の移住、50人雇用の企業の進出も実現した。昨年は、山梨県甲州市勝沼町で同様の合同合宿を行い、東京の社会人と勝沼町のワイナリーとの連携事業も誕生した。地域のことを学ぶだけでなく、ローカルと東京を結ぶ実践的提案活動も行なっている。

地域研究会として恩返ししたい

 3月11日に発生した東日本大震災は、4か月を過ぎた今もまだ深い傷跡を残したままである。被災状況は深刻な状況が続いており、経済的にも大きな打撃を受けている地元の生産者がいる。
 私は現場情報などをまとめて、毎日メールで情報共有するとともに、復興支援のため現地視察も行い、どのような支援が必要で可能かを研究会のメンバーと検討した。支援物資があふれることで、被災地周辺地域の商品が購入されないという問題も出ている。支援として、地元の生産者や個人商店から新鮮な食べ物などを買って、それを被災地に届けることはできないか。支援物資を送るだけでなく、被災地が健全な経済活動に復帰し、雇用が生まれ復興の基盤が整えられるよう、長期的な支援をしようと、まず義援金を集めようと、活動が始まった。

義援金を送り、被災地へ

 災害発生当初は、各被災地の地域リーダーに独自の判断で被災者支援を行ってもらうことが最良だということが、メールなどの情報交換によって分かった。3月16日から研究会として独自に支援金の募集をはじめ、100名以上の方から、約200万円の義援金をいただいた。この義援金を現地で活動している地域リーダーに送った。義援金状況については、日々のメール報告で有志の氏名を発表、支出先についても、その都度、報告した。
 地域リーダーの1人、岩手県遠野市で農場を経営している多田克彦さんは、比較的早い段階から乳製品などの生産を再開した。仙台市にある物流センターが津波で壊滅したため、東京などへ製品が出荷できない中、釜石市など津波被害を受けた近隣の避難所に、新鮮な野菜や牛乳やプリン、スイーツなどをボランティアで届ける活動をスタートしていた。
 また、研究会の設立当初からのメンバーでもある一関市の酒造会社「世嬉の一」では、大正~昭和初期に造られた酒蔵の壁が崩壊したが、常務の佐藤航さんらが中心になって陸前高田市などへ支援物資を届けるなどの活動を継続的に行っており、こちらにも義援金を送り、被災者に支援に役立ててもらった。
 花巻市の猿舘祐子さんは子育てネットワークを通して独自に支援物資を集め、大槌町で避難所となっているつつみ保育園を中心に支援活動を行った。ミルクが手に入らないという母親がいれば、ミルクだけでなく洗剤や紙おむつなどを手渡すなど、きめ細かな対応をした。研究会のネットワークを通して、ドイツからも義援金などの支援が届いた。研究会に講師で参加していただいた縁から、赤十字のような大きな団体に募金をするのではなく、顔の見える支援がしたいと申し出があり、ドイツのおもちゃが猿舘さん宛てに送られ、子どもたちに手渡された。
 こうした直接的な支援活動も5月には終了したが、長い地道な精神的・経済的な新しい取り組みが必要とされていた。

遠く離れていてもできる「顔の見える」支援

 研究会の仲間で、持続可能な精神的・経済支援の方法はないかと話し合って、「はがき商品券」を発案した。
 東北復興支援を希望する人が「はがき商品券」(1枚5,000円)を購入。このはがきに希望する地域産品セット(地酒と野菜、乳製品、めんつゆなど)と、自分の似顔絵、さらに応援メッセージを記入して投函する。「はがき商品券」が届くと、地域産業の事業者は、購入者の希望した地場産品にお礼メッセージを添えて配送する。また、「はがき商品券」は自分で使わずに誰かにプレゼントすることもできるし、送付せず、使わずにとっておけば全て支援金として生きるシステムでもある。義援金を出し続けることには無理があっても、地域の産品を購入するのであれば、長く支援を続けることができる。この商品の評判が良く、すぐに300枚が購入され、ホッとしている。
 20代の公認会計士の山口八重さんは、「はがき商品券」も含め新しいかたちの地域経済振興を継続的に行うための運営事務局となる“株式会社ごえんカンパニー”を、5月10日に設立した。山口さんは、俳優で農業者でもある永島敏行さんが学部長を務める「世田谷ものづくり学校 スクーリング・パッド」の農業ビジネスデザイン学部の第4期生。農業ビジネスデザイン学部受講生はローカルデザイン研究会に出席してきた。山口さんは地方と東京を結び、地方の事業者をビジネス面から応援し、地方の活性化に寄与しようと考え起業した。将来は東北だけでなく、全国の市民事業を応援するマイクロクレジットの実施も視野に入れている。現在、はがき商品券の販売委託を行うだけでなく、事業経営も指導している。会計のプロがいるから問題が生じても、すぐに対応できることで、現在順調に事業が進んでいる。
 はがき商品券は、商品としてのモノより交流を大切にしている点がほかの商品支援とは違う。はがき商品券のデザインは、研究会と縁が深い高知のデザイナー梅原真さんがボランティアとして作成してくれた。
 「はがき商品券」のメリットは生産者を支援しながら、産直品を購入、ギフトにもできること。一般的な流通を通して商品を購入する場合、流通・卸・小売店等の手数料がかかる上、消費者と生産者が直接コミュニケーションをとることが難しい。「はがき商品券」だと、生産者はきちんと利益を得ながら、購入者にも喜ばれる商品設定が可能である。商品と共に届く、手描きの笑顔はがきに感動したという声や、購入者からのはがき商品券の笑顔やメッセージのセンスが良く、いずれ「はがき商品券美術展」(仮称)を行いたいという希望も出ている。今のところ岩手県内の三つの業者だけだが、これから津波の直接の被災地の個人や企業などへと拡大していき、地域の精神的。経済的自立のお手伝いをしていきたいと考えている。

はがき商品券表

156-1-1156-1-2

はがき商品券HP hagaki-shouhinken.com
ごえんカンパニー 電話03-5843-9187