戦略的に動く韓国
毎日新聞No.350 【平成23年11月11日発行】
10月下旬、韓国・忠清北道を訪問する機会があった。実は、この忠清北道には山梨総合研究所と調査・研究協定を結んでいる忠北発展研究院があり、毎年、研究交流を実施している。第4回目となる今年は、当研究所が訪韓し「日韓バイオ医療産業の現在と未来」をテーマに議論した。
この中で、韓国は国・地方を通じて戦略が非常に明確であり、その戦略に沿って人・モノ・金・情報が動いているという現実が印象的であった。我々がマスコミなどを通じて認識している韓国の姿は、IT産業が世界市場を席巻していることや、米国市場中心にシェアを着実に伸ばしている自動車産業の隆盛である。ところが韓国は、既にこれら産業に代わってバイオ産業分野を次世代の成長産業の一つに位置づけている。そして行政、研究機関、大学、産業界などがこの戦略を共有している。従って、ベンチャー企業の育成や中小企業の支援策はこの戦略に沿って優先度が高い。それは国・地方の予算の使われ方からも分かる。行政府の強い意思と、その意思を示すためにバイオ産業分野に予算がついているのである。
議論終了後、化学物質等の安全性や有効性試験を手掛ける㈱バイオトクステックを訪問した。同社は、忠北大学の教授が2000年に4名で立ち上げた企業である。現在、約170名の社員を擁し、平均年齢は35歳、ドクター取得者7名、2007年にはコスダック上場を果たした成功モデル企業である。また、日系企業との業務提携や共同投資にも積極的であり、日本からの受託は2010年に1,539件にまで増加している。こうしたベンチャー企業をサポートする仕組みが国と地方政府にあり、成果としてバイオ企業が一地方都市に生まれ、成長する現実である。同社の成功は、まさに韓国の戦略が果実となった好事例であろう。
忠北発展研究院の院長は「韓国は日本からは学び、中国からは刺激を受ける」と言っていたが、その言葉も実は日本に追いつきつつあるという自信から出てきたように聞こえた。道庁のある清洲市は人口約70万人の地方都市にすぎない。しかし人々や街の雰囲気は明るく活気と自信に満ち、彼我の差を強く感じさせられた交流セミナーであった。
(山梨総合研究所 専務理事 福田 加男)