食文化を守る意味
毎日新聞No.353 【平成23年12月23日発行】
早いもので、今年も残すところあと僅かとなった。街でおせち料理を見かけると、正月の気分が一層増してくる。
おせち料理の由来を調べてみると、もともとは、各節句の祝い膳として「御節料理」がつくられていたが、今では、節句の最初の日にあたる正月料理だけに「御節」という言葉が残ったようである。各家庭で、おせち料理に、ささやかな願いを込めたのであろう。
このように縁起物のおせち料理を囲んでの家族団らんは、当たり前の光景だったはずだが、最近は、少し事情が変わっているようである。
旭化成ホームプロダクツ(株)の調査(2008年、全国1,550人)によると、おせち料理を食べている割合は、若い世代ほど低くなっており、この先が気掛かりである。また、おせちを彩る各料理の由来、例えば「昆布巻き」は「よろこぶ」の語呂合わせから、おせち料理に欠かせない食材の一つである。にもかかわらず、おせち料理の謂われを知らない人が4割いるとの結果である。
私たちは、ただ食べるだけではなく、食べることの意味、大切さを感じながら、おせち料理をはじめ各地域に根ざした食文化を守っていく必要があるのではないか。
国においては、健全な食生活の確保などを目的として、平成17年に食育基本法を制定し、国、自治体、地域等で食に関するさまざまな取り組みを行っている。その一環として、伝統的な食文化の継承が求められている。
ところで、食文化の継承は、食を守るだけではなく、それを育んできた地域そのものを守っていくことにも通じる。
なぜなら食文化を見直すことによりにより、地域の良さを再発見する機会になり、同時に地域に愛着を感じ、壊れかけている地域コミュニティの再生につながる可能性があるからである。
先ほどのアンケートの締めくくりは、8割の人が、おせち料理を「伝統文化」として後世に伝えていきたいという結果となっており、食文化にとって明るい兆しも見える。
来年のおせちは、料理に込められた意味をかみしめ、また食の大切さ、伝統的な食文化を感じながら、召し上がってはいかがであろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 村松 公司)