地域参画型公共交通への転換


毎日新聞No.355 【平成24年2月2日発行】

 車社会の進展に伴い、路線バス利用者は年々減少しており、バス事業者も採算が確保できない赤字路線から撤退する傾向にある。車を運転できない高齢者等の交通弱者からは、「何とかしてほしい」という要望を受け、市町村がコミュニティバスを運行するケースも増えてきている。
 市町村も財政が厳しい中で、コミュニティバスを導入するためには、利用してもらうことが第一義となる。そこで、地域のニーズを把握するために住民アンケート調査を行い、利用しそうな運行経路や運行時刻などを決めていく。住民アンケート調査は、その自治体全域に対するサンプル調査で行われるため、本当にバスを必要とする人の声を拾えるわけではない。どうしても「行政が作る計画に市民を合わせる」という行政主導型の運行になりがちであり、いざ実施してみると、思ったほど利用が伸びないのが現状である。

  近年では、地域公共交通の確保に、地域住民や沿線企業などが自主的に取り組む事例が見られる。三重県松阪市では、地域でコミュニティバスの運行を望む場合、地域住民によって運行計画を作り、市に対して立候補する制度を設けている。地域への公共交通を本当に導入したい自治会が主体となり、「地区公共交通運行検討会」を設置し、運行経路や運行時刻などを決め、市と協議していく。また、地域の協力と負担を前提としていることから、ある地区では、2年掛けて市との協議を進め、沿線住民には1世帯800円の協賛金を負担してもらうことで、運行にこぎつけている。
 このように地域参画型の公共交通では、市町村の負担に依存するだけでなく、地域の自治会などで必要な経費の一部を負担し、運行を実施している所が多く見られる。また、地域の関係者がその地域に本当に必要なサービスは何なのかを真剣に考え、自発的・主体的に取り組んでいるため、利用促進や改善提案など住民意識の向上も期待できる。

  地域のニーズはその地域の人にしかわからない。今までのように行政に依存するだけではなく、住民が、地域の公共交通を「創り、守り、育てる」という意識を持つことが重要である。行政も、「市民が作った計画を支援していく」という発想の転換が必要であろう。

(山梨総合研究所 主任研究員 小柳 哲史)