Vol.163-2 地域課題討議の現場から


~若者を集めるステージの創造~

公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 赤沼 丈史

1 はじめに

 山梨総合研究所では、県内市町村が抱える地域課題について考え、市役所・役場職員と膝を交えて話し合い、自治体行政への有効な提言につなげていこうとの目的で、毎年度「合宿研修会」を実施している。
 平成23年度は山梨市を舞台とし、市職員の方々の多大なるご協力をいただく中、8月2日に山梨市役所三富支所で開催した。
 本稿では、先月の中村主任研究員担当分に続き、筆者担当の発表テーマ「若者を集めるステージの創造」について紹介するとともに、地域振興を目指す基礎自治体が採りうる手法について検討したい。

2 検討の背景

 現在私たちは、様々な地域の課題に直面している。
 まちの中心は空洞化が進行しており、人影は少ない。山間地は限界集落が増加し、それに伴い耕作放棄地が拡大している。シャッター街や農家では空き家が増え、さらに活気を失っている。
 これらは複数の異なる課題が互いに関係し合っているが、いずれにおいてもその結果として、地域コミュニティの崩壊が色濃く映し出されている。
 市町村が策定する長期総合計画内にも多く取り上げられている「地域コミュニティの再生」という課題であるが、ただ「再生」するだけでは生き残れないのではないか。つまり、新しい時代の地域コミュニティの姿は、全力で「創造」しなければならないのではないか、という危機感が本稿の検討の背景となっている。
 そのための方策として、今回は住宅政策を取り扱った。

3 検討の要旨

 (1)現状

 平成22年に実施された国勢調査結果における山梨県の人口構成において、65歳以上の高齢者の比率は24.5%であった。これは超高齢社会に該当する数値である。
 また、人口の減少と世帯数の増加も顕著になっていて、地域コミュニティの縮小や世代間交流の弱体化が懸念される。

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○山梨県の人口構成

○山梨県の人口と世帯数

 (2)定住支援制度

 このような人口減少社会の到来により、山梨県内市町村では多くの定住支援制度が行われている。

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 住宅に関する主な支援制度の一つである空き家バンクとは、移住希望者と空き家の売却(貸出)希望者をマッチングするシステムのことで、空き家の増加に悩む地方の自治体で多く取り組まれている。主な利用者として、都会から地方への移住を希望する中高年世代が挙げられる。
 山梨県内における空き家バンクは、平成19年度前後から多く開始されており、二地域居住・田舎暮らし応援総合サイト「甲斐適生活」では、現在14市町における取組が掲載されている。

 (3)山梨市の取り組み

 その中でも、山梨市の取組は注目されており、広く紹介されてきた。
 社団法人山梨県宅地建物取引業協会とはじめて協定を締結したことで、「単なる空き家の紹介」に留まりがちだった行政の対応から踏み出すことに成功している。専門的な不動産取引に関するトラブルを未然に防止できるという安心感が奏功して、コンスタントな契約実績を残してきた。
 山梨市における空き家バンク利用希望登録者数は、現在も増加し続けており、制度開始時に比較して2.6倍以上となっている(平成23年3月時点)。

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 また、平成20年度の住宅土地統計調査において、山梨県は「全国一の空き家率」20.2%を記録している(長野県の19.0%、和歌山県の17.9%と続く)。
 空き家の増加は統計が示すばかりではなく、地域に暮らす人間として強く実感していることでもある。相続などの理由により空き家の所有者となった方の多くは、県外に転出してすでに長く、ふるさとに戻って再びそこに住むというケースは少ないようだ。
 以上のことから、登録者数という需要も空き家数という供給も伸びており、空き家バンクの市場はなお拡大しているのではないか、との推測に至った。

 (4)新たな課題

 しかしながら、平成23年7月22日の山梨日日新聞には、ある市の空き家バンクについて次のような現状が掲載された。
 「広報誌やホームページを通じて空き家登録を呼びかけているが、その数は伸びておらず、現在入居可能な物件は3軒のみ」
 開始から5年以上が経過し、制度の一部に機能不全が生じている空き家バンクの実態がここにあった。それはつまり以下のような状況である。
 個人の心情として、いくら空き家とは言え、ふるさとの家を手放すことに抵抗感があるのは想像に難くない。帰省時には利用することもあるだろう。
 また、住宅を他人に貸して賃料を取るということにも、都会とは異なり心理的ハードルが高い。近所の評判も多少は気にかかる。

 (5)条例制定の提案

このような新たな課題をも生み出している空き家の課題に対しては、「空き家等の適正管理に関する条例」の制定を提案したい。これは主に以下に掲げる5つの目的を有している。

①内外に対する方針表明

 自治体が力点を置く政策であれば、条例を制定する必要があるだろう。景観防止条例により、空き家の廃墟解体命令やその行政代執行も可能にした和歌山県の仁坂知事は、「このような条例が最終的に法律になれば良いと考えている」と、空き家対策に対しては、全国的に規制が必要であることを示唆している。

②空き家実態調査権の付与

 個人の資産であるはずの空き家も、防犯・防災上の観点からは社会の資産として扱われるべきであり、条例の制定によって調査の根拠が付与される。

③空き家所有者への適正な管理を行う責務の明示、助言、指導

 空き家対策について、全国初の条例制定を行った所沢市(平成22年10月施行)では、実際に空き家の自主撤去件数が増加している。

④登録のインセンティブ

 空き家バンク登録に対する報奨制度として、該当物件に関する固定資産税の免除、登録に向けた改修費用の融資や一部補助、もしくは利子補給制度も考えられる。

⑤市民ファンドの創設

 空き家バンクの財源として、この取組への賛同者や住民から出資を得て設立されるファンドを位置づける。東日本大震災の被災地にある企業支援でも注目されている手法だ。
 しかし、条例の効果により、例え空き家バンクへの登録が図られたとしても、次の課題こそ解決しがたい難題となっている。
 それはつまり、大きな物件が提供されてもミスマッチにならざるを得ないという現状である。なぜなら、現状における空き家バンクの主な利用者である中高年世代は、小さな物件を求める傾向にある。山間地にある養蚕農家などは面積が広すぎるため、敬遠せざるを得ない。空き家の多くを占めている大きな物件は、供給が多い割に需要が少ないのだ。

 (6)マーケットの開拓

 人口約2,000人。高齢化率約50%。「つまもの」による葉っぱビジネスで有名な徳島県上勝町では、過疎化により生じた廃校を改修し、貸事務所(5室)と賃貸住宅(8室)として利用している。内装には町内産の杉を利用するなどし、廃校リニューアル50選にも選出された現地の物件は常に満室状態が続いているという。
 空き家に限らず、廃校や老朽化した公営住宅の再利用など、今後の住宅政策はストックの活用に転換されつつある。
 では、そこに「誰」が「どう」住むのかを考えた時に、新しいマーケットが浮上してくる。それがタイトルにある「若者」(本稿においては、20歳台の学生及び社会人をイメージしている)であり、彼らを「集めるステージ」となりうるシェア住居である。
 シェア住居とは、一つの家を複数の人と共有(シェア)して暮らすことを指している。キッチンやリビング、シャワーなどは住人全員で共有し、部屋は一人ずつ個室を利用するシステムであり、21世紀の下宿とも言うべき古くて新しいライフスタイルだ。
 住人がリビングに集まって一緒に食事をしたり、情報交換をしたりすることで仲間同士となって生活できる一方、鍵のかかる個室で寝起きするためプライバシーは確保されている。大型電化製品や光熱水費の基本料金は住人全員で負担する、など経済的にも有利な点がある。また、水回りの共有化により初期投資が安く済む、空室リスクが少なく稼働率が高い、など物件の所有者にとってもメリットがある。

シェア住居に関する概況(2007年時点)は以下の通りとなっている。

  • 全国の物件数は約430軒で、全体で約7,000人が居住している。
  • 居住者は約7割が女性となっている。
  • 年齢構成は「20歳代後半」が1%、「20歳代前半」が28.3%と、20歳代が6割以上を占めている。

 なお、山梨県立大学の学生約60名に対し、シェア住居に関する意識調査を行ったところ、「ぜひ住みたい」と「できれば住んでみたい」合わせて26.5%の好意的な回答が得られた。

 (7)今後の可能性

 さらに、シェア住居の今後の可能性を切り拓くキーワードとして「地域社会への貢献」を掲げたい。これは身近な社会に対する参加意識で、企業や個人の間で浸透してきた。自治体の採用担当者に聞くところによると、数年前からすでに多くの学生がこの「地域貢献」を志望動機に挙げるそうだ。
 山梨県立大学の学生を対象にした意識調査では約45%の学生が「地域貢献に興味がある」と回答している(「興味がない」17.0%「わからない」38.3%)。

 地域貢献を果たしながらシェア住居で生活する居住者の事例イメージとして、以下の3件を提示する。いずれも居住者として20歳代の「若いし」を念頭に置き、市町村が借り受けた物件を管理運営するモデルケースである。
 住宅の改修費については、上述した市民ファンドを財源とし、運営経費については、普通交付税で算定されている雇用対策・地域資源活用推進費や、近年の厳しい雇用情勢を背景に創設された雇用対策費が考えられる。

モデルケース①

居住者

場所

シェアする物件

目的

大学生

駅近くの市街地

閉店したままの店舗付き住宅や公営住宅

ゆるやかな仲間同士のつながりやにぎやかな日常

 日常生活のイメージとしては、普段はリビングでサッカー観戦やテレビゲーム大会が複数の居住者により開催されるほか、就職活動の情報交換や恋愛相談が行われている。試験期間が近づくと、静かに個室で勉強をする者も多くなる。
 学生生活に必要なアルバイトが地域貢献活動となっており、高齢者世帯の見守りや配食サービスの配達員として市町村から賃金を得ている。駅に近い市街地が望ましいのは、商店街の利用など、まちなかでの生活も地域に密着したものになるからである。

モデルケース②

居住者

場所

シェアする物件

目的

就農(希望)者

山間地

農家住宅

農業技術の共有や遊休農地の利用権

 この物件のリビングでは、収穫されたばかりの野菜を食材とした料理教室や試食会が催されているほか、農業技術の共有を目的とした発表会や、先輩就農者から就農希望者へのレクチャーも行われている。
 地域への貢献としては遊休農地の活用が挙げられるが、それは同時に農地を持たない居住者にとってのメリットにもなっている。

モデルケース③

居住者

場所

シェアする物件

目的

社会人

山間地

農家住宅

趣味としているアートや音楽活動に必要な設備

 この物件には、異なる企業に勤務している共通の趣味を持った社会人が住んでいる。養蚕に利用していた広い屋根裏をアトリエとして共同制作活動のスペースとしたり、防音設備のあるリビングで楽器やチームダンスの練習をするなど、趣味のために特化された設備が目当てとなっている。
 趣味のアート活動を活かしたお年寄り向けの週末カルチャースクールや、廃れてしまっていた山間地における伝統芸能の復活も地域への貢献として興味深い。
 従前までのマーケットに加えて、新たなマーケットとしてその概要を以下のとおりにまとめた。

4 おわりに

 住宅のシェアというと経済性ばかりに目を向けがちだが、シェア住居というライフスタイル自体が付加価値なのだと認識したい。それはつまり、ただ住居をシェアしているだけではないということだ。
 山梨県立大学の学生を対象とした意識調査の中に「寮生活の経験があり、その楽しさや良さを知っているからシェア住居にも住んでみたい」という意見があった。筆者も一時期、寮生活を謳歌したことがある。その時に感じた活気や仲間との切磋琢磨といった貴重な時間の共有(シェア)こそ、これからの地域を支える人財(材)に必要な財産となるはずだ。

【参考文献等】

  • 三浦展 「これからの日本のために「シェア」の話をしよう」 2011年 NHK出版
  • ひつじ不動産監修 「東京シェア生活」 2010年 アスペクト
  • オシャレオモシロフドウサンメディアひつじ不動産ホームページ http://www.hituji.jp/
  • 柏木珠希
    「資金30万円からはじめられる 大家さん!これからの不動産投資はゲストハウス シェアハウスが絶対お得です!」 2010年 秀和システム
  • ブルータス2012年2月15日号「街にも人にもつながる集合住宅・新時代 集まって住む。」
    マガジンハウス
  • 財団法人 地域活性化センター 「地域再生リニューアルアイデア事例集2005」
  • 甲斐適生活 山梨で暮らす。甲斐適生活応援総合サイト http://www.kaiteki-seikatsu.org/
  • 山梨市オフィシャルサイト http://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/