“ずっと続けて”
毎日新聞No.358 【平成24年3月16日発行】
先ごろ、カンヌ・ベネチアと並ぶ世界三大映画祭の一つベルリン国際映画祭で和田淳監督の「グレートラビット」が銀熊賞を受賞し話題になった。県内では、2月15日に、淺川巧の「道―白磁の人―」の試写会が開かれコラニー文化ホールは満席、日韓での同時公開が6月に予定されている。続く、16日には、「山梨シネマアワード2012」の授賞式が湯村温泉常盤ホテルで開かれ、こちらも200人を超す盛況振りであった。
さて、「山梨文学シネマアワード」は夕張映画祭を立ち上げた小松沢陽一さんが山梨ゆかりの作家や映画人に愛された湯村温泉郷の活性化をめざして昨年スタートさせた映画賞である。
今年の受賞者は、100歳の映画監督新藤兼人さん(近代映画協会代表の息子新藤次郎さんが代理出席)、石原裕次郎夫人で韮崎出身の北原三枝さん、「たそがれ清兵衛」で日本アカデミー賞・最優秀新人賞の舞踏家田中泯さん、「武士の家計簿」のプロデューサー原正人さん、「八日目の蝉」で日本アカデミー賞最優秀監督賞の成島出さん、黒澤明「七人の侍」に出演した俳優土屋嘉男さんなど山梨ゆかりの面々である。お祝いに駆けつけた大勢の人々が見つめる中で授賞式の幕は上がった。挨拶に立った小松沢さんは突然声を詰まらせ、淡島千景さんの急逝を知らせた。淡島さんは昨年の第1回アワードで授賞され、85歳とは思えない美しさと気品をたたえ、映画「駅前旅館」のロケで常盤ホテルにお泊りになったこと、宝塚から映画人として再出発したとき“いつでも帰っておいで”と優しいことばをかけてくださった小林一三さんは私のおじいちゃんなどと、宝塚時代の思い出を語ってくれた。“すばらしい映画賞がスタートしました、ずっと続けてくださいね”彼女の最後のことばである。
甲府盆地は作家や映画人にとって創作の揺りかごのような空間ではないだろうか。これからも映画と文学を通して風土を見つめなおし、ふるさとを愛する人の輪を広げていきたいものである。
(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)