おもてなし定着へ確かな歩みを


毎日新聞No.360 【平成24年4月13日発行】

  信玄公祭りが2年ぶりに戻ってきた。甲州軍団出陣当日、街は活況を呈し、花開く桜や桃の風景とあわせて、本格的な観光シーズンの到来を実感させる。
  さて、昨年12月に「おもてなしのやまなし観光振興条例」が施行された。「①観光事業の発展②経済的利益の享受」を掲げる従来型の図式を超えて、「①担い手は県民②地域への誇りと愛着からもたらされるおもてなしマインド③魅力ある地域づくりの実践④住んで良し、訪れて良しの活力ある地域社会の実現」という県民起点の理念に貫かれている点で、この条例の制定は本県にとっての画期をなす動きであったと考える。条例前文にエッセンスが凝縮されているので、一度お目通しをお勧めしたい。

  近年、観光客にとって魅力ある地域とは、まずその地に暮らす住民が愛し、誇れる地域でなければならない、との考え方が定着してきた。また、観光の形態も、画一的な物見遊山型から、旅先での体験やふれあいが重視される交流型・参加型に移行しつつあるといわれる。添乗員や宿の従業員だけが旅先との接点というのでは物足りず、そこに住まう人々を含む、手触りのある地域として旅先に関わりたいと望む観光客が増えつつあるようだ。
  こうした変化を背景に、自治体の観光施策も変容を迫られる。誘致対象となる域外の人々のみを意識したり、観光事業者・観光関係団体をプレーヤーとするだけでは立ち行かず、施策の展開は住民を巻き込んだものとすることが求められている。県内の少なくとも15にのぼる市町村で、総合計画あるいは観光基本計画において住民を観光まちづくりの担い手と位置づけ、おもてなしの意識啓発や人材育成に取り組む姿勢を示しているのはその表れだ。甲府市が昨年度から注力している市民を優先対象とした地元ツアー「こうふ地旅」なども有効な試みと言えよう。

  平成24年度は山梨にとっていわば「おもてなし元年」。県内各地で創意工夫が凝らされ、住民と観光をつなぐ取り組みが全面展開されるよう期待したい。

(山梨総合研究所 主任研究員 中村 直樹)