Vol.165-1 映画を通じてのコミュニティの活性化


社団法人笛吹青年会議所 岩野 博司

1. 市民が主体的に“行動”出来る土壌づくりを目指す

 2010年11月当時、私が理事長(2010年1~12月任期)を務めていた社団法人笛吹青年会議所は、該当年度のメイン事業として『ふえふき映画祭ワークショップ2010』を開催した。
 地域活性化は行政そして特定の団体や個人だけが躍起になっているだけでは限界があり、私は地域の人々が自ら主体となって広く参加・参画できる土壌づくりを構築することを該当年度の基本方針に掲げ2010年1月、活動を始めた。そして3月、ご縁があり地域資源を活用し“映画”を通じた地域の活性化を思い描く有志グループの勉強会に会員とともに参加、思いを描くだけではなく形にしていくために一人一人が小さな一歩でも踏み出し、“行動”していくことにこそリアリティが生まれ、真の地域活性に繋がると確信し、地域市民と共同での映画祭開催を決意した。
 職業も年齢も環境も異なる地域の様々な人々が集まり、「ワクワク、ドキドキするような街にしたい」そんな夢と熱意を持って目指したのは「市民が主体の映画祭」。映画祭実行検討委員会を経て6月、地域市民と青年会議所会員で構成する映画祭実行組織“WAMO-PROJECT実行委員会”を立ち上げ、約半年にわたる準備が始まった。

165-1-1

2. ふえふき映画祭ワークショップ2010の開催

 もともと勉強会から派生した映画祭ということから、目指すべき映画祭のプレ企画という位置づけで「映画祭を学ぶ映画祭」としてワークショップ形式という珍しい手法を取り入れ、2010年11月5・6日の2日間、笛吹市初の映画祭『ふえふき映画祭ワークショップ2010』を開催、山梨県外からの映画関係者を含め680名のご来場をいただいた。

165-1-2

ふえふき映画祭ワークショップ2010概要

・活弁映画上映会(日本映画の歴史を学ぶ)

・親子アニメ教室(映画を作る楽しさを学ぶ)

・ショートムービーコンテスト(若い才能を応援)

・山梨シネマ功労賞授賞式典およびウェルカムパーティー(映画人を讃える・もてなす)

・特別セミナー「映画のまち夕張からのメッセージ」他3企画実施

・山梨県出身映画人を応援する会(関連作品上映およびトークショー)  等

 また、映画祭開催に向けた過程において本事業に共感、ご賛同いただいた若手映画関係者有志の方々が私達の取り組みを題材に笛吹市内各地で撮影された15分の短編作品を制作、無償提供いただいた。村野武範さんをはじめ本物の俳優さん、女優さん、さらには実行委員会、青年会議所のメンバーも出演した本作品『EIKO』は、映画祭のオープニングを飾る作品として上映された。

165-1-4

3. 地域資源の再確認と可能性

 先の映画祭開催において最も重要なファクターの一つとなったのは“映画館”であった。会場となったテアトル石和は半世紀近くの歴史を刻む老舗映画館。ビデオレンタルや大型映画鑑賞施設いわゆる“シネコン”の台頭といった逆風の中においても休むことなく今もなおフィルムを回し続けている。
 先の映画祭開催に向けた過程において私達は『“シネマの殿堂”リニューアル大作戦』なる取り組みを行った。映画館敷地内に残る廃パチンコ店を実行委員会、地域市民とともに約1カ月かけて“映画”をテーマにしたイベントスペースとして改修し、実際に映画祭においては山梨シネマ功労賞授賞式典およびウェルカムパーティーとして活用された。

165-1-5 約1カ月間、1日2時間程度であるが休むことなく毎日劇場に足を運び携わることで気付いたことは、このテアトル石和が半世紀という時間をかけ、この地域に“映画”という文化を根付かせていく中で築いていった“地域資源”としての魅力、すなわち“地域の宝”であることだった。実際に時を同じくしてテアトル石和は全国誌の表紙や特集記事をはじめ多くのメディアに「日本のニューシネマパラダイス」、「昭和ノスタルジア」などとして取り上げられている。
 私はこの取り組みを通じ“テアトル石和”という映画館を“地域の宝”として地域の人々に再認識していただく必要性と“地域資源”としての可能性を強く感じることとなった。

4. ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2011視察

 先の映画祭を通じ、地域内外の多くの方にご協力、参画、参加いただいたことで、新しいコミュニティの創造、活性の一助を生むこととなった。
 そのひとつとして『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2011』の視察が挙げられる。『ふえふき映画祭ワークショップ2010』にご協力いただいた夕張再生市民会議代表の三島京子さんのはからいによりご招待を受け、私と実行委員会を代表して大村春夫・丸藤葡萄酒社長の二人で視察をさせていただいた。
 『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』は1990年に中田鉄治・夕張市長(当時)が国の「ふるさと創生一億円事業」を活用した地域振興事業としての開催がその始まり。東京国際映画祭と並ぶ日本国内でも有数の歴史ある映画祭に発展。2006年に夕張市が財政再建団体入りしたことに伴い市運営による開催中止と運営補助金打ち切りが発表されたが、地元市民や映画ファンなどの有志が中心になりNPO法人「ゆうばりファンタ」を設立、2007年から再開された。運営資金が豊富にあった頃と比較するとその規模は小さくなってはいるものの地域を支える心の事業であること、そして厳しい状況下においても市民にとっては映画祭が“誇り”であることを強くうかがうことが出来た。

5. 発展的な活動や展開に大きな道筋を

 先に記述したが『ふえふき映画祭ワークショップ2010』には山梨県外から多くの映画関係者が会場を訪れたが2011年4月、その交流が一つの新しい展開を生み出すことになった。“映画”を地域活性化に活用していくという目的に共感していただいた制作プロダクションにより笛吹市を実名の舞台とした映画『婚活サポーターガールズ!』(2011年11月、テアトル石和にて公開)が撮影された。作品のほとんどが笛吹市内で行われ、地域の多くの方々がエキストラ出演、さらには映画祭実行委員会そして青年会議所のメンバーがロケ地探しや撮影交渉、出演者の宿泊先や移動手段の確保など後方支援を全面的に担った。ロケ地の 提供といった一般的な撮影協力にとどまらず、地元の人間としての優位性を活用し、深く関わっていくことで映画製作という非日常の経験が大きな大きな“やりがい”に繋がっていった。2週間に及ぶ撮影の最終日全ての撮影終了後には、地域の方々が主催で松方弘樹さんをはじめとする出演者、スタッフ全員をお招きしての屋外打ち上げバーベキューを開催。4月のまだ肌寒い夜、ストーブを囲んでスクリーン越しでしか見たことがなかった人達と仲間が交流する様子は今後の新しい筋道に可能性を見出してくれた。

165-1-6

 続く2011年7月には世界の数々の国際映画祭に出展、高い評価を得ている三池崇史監督による『愛と誠』(妻夫木聡・武井咲主演、2012年6月15日全国ロードショー)の撮影が笛吹市内施設において約3週間行われ、延べ100名近いエキストラでの出演、総勢150名近くのキャストおよびスタッフ関係者の食事の炊き出しなどのサポートを通して、様々なコミュニケーションの場が生まれた。
 また山梨県による撮影ロケ地誘致を中心としたフィルムコミッション事業は現在大変精力的に活動をされており、頻繁に県内各所で撮影が行われている。本作品についてはその事業業務内では対応しかねる実際の撮影現場レベルの諸問題を私達地域の人間が担うことで、それぞれの歯車が効果的に機能できる可能性を見出すことが出来た。

 そして今年2月に笛吹市を中心に山梨県内で撮影された映画『Night People』(佐藤江梨子・北村一輝出演、年内公開予定)においては地域の人々が主体的に関与していくその活動の輪は少しずつではあるが確実に広がっていることを実感、この積み重ねが地域の活性化に繋がることを確信している。

6. ふえふき映画祭“懐かしの活弁映画上映会”の開催

 『ふえふき映画祭ワークショップ2010』の経験を通じて感じた“テアトル石和”という映画館を“地域の宝”として地域の人々に再認識していただく必要性、そして“地域資源”としての可能性を大きなテーマとして今年3月に『ふえふき映画祭“懐かしの活弁映画上映会”』を開催。先の実行委員会、青年会議所から市民団体「笛吹市を映画で元気にする会」に受け皿を移行し、笛吹市から市民活動支援事業として認定いただき臨んだ。
 上映作品は先の映画祭において上映協力をいただいた活弁映画一筋の田中映画社による『血煙り 高田馬場』のみ。本作品は現在の様なトーキー映画が誕生する前の昭和初期、庶民の最高娯楽のひとつであった“無声(サイレント)映画”で、時の名優・坂東妻三郎主演の名作。映画『ニューシネマパラダイス』を彷彿させるテアトル石和と“日本映画の原点”ともいうべき活弁映画のコラポレーションはまさに“昭和ノスタルジアの極み”とでも形容しようか、現在ではおそらく時代劇においては国内唯一の名弁士・井上陽一氏の名調子、さらには和洋楽奏団の奏でるリズムと映像が三位一体となり、劇場内に瞬く間に臨場感を創り出し、観客の笑いや歓声と相重なりとても心地よい空間を醸し出していた。
165-1-7 3回行われた上映は全て満員御礼。100席近く用意されたシートが埋め尽くされたその光景は圧巻で、感動以外の何物にも代えがたいものであった。最後の上映が終わると同時に、客席からの鳴りやまない拍手喝采、そしてステージ上に駆け寄り数人の観客が井上弁士におひねりを手渡し、井上弁士が涙を流しながら受け取る光景はまさに“地域の宝”と呼ぶにふさわしいものであった。
 また施設内の屋外スペースと私達が改修した“シネマの殿堂”においてはJR春日居駅において毎月定期開催している「春日居朝市」に出張開催していただいた。生花、炊き込みご飯、パン、農産物の販売、フリーマーケットなどなど、そして朝市の会有志による甘酒、豚モツの煮込み、春日居名物の鯉こくの無料サービスを目当てに用意された駐車場に車が入りきらないほど多くの人々が集い、活気に満ち溢れた。
 “テアトル石和”という地域資源が映画上映という点と朝市という点を結ぶことでそれがまさに線になった。今後この線がやがて何本にも増え面になっていくことで地域において大きな広がりを導くことが期待できる。

7. 終わりに

 盛んに叫ばれる“地域活性”とは果たして何か?
 私自身、本取り組みを通じて出した答え、それは“地域活性はコミュニティの活性に他ならない”と。私達の生活する“地域”には仕事も、育った環境も、世代も、悩みも違うたくさんの“経験”を持つ人々のエネルギーで溢れている。この地域に溢れている“経験”が何かをきっかけに互いに握手をしたら…そしてその握手が輪になって広がっていったら…。自然とものすごく楽しい地域になる気がしてワクワク、ドキドキしないだろうか。本取り組みにおいての“何か”とは当然ながら“映画”であった。私の場合自分の生活する地域に一軒の映画館があった、映画好きの友人がいて本気で取り組もうと悩んでいた、といったところだろうか。決して“映画”が大好きだったわけではない。しかしながら浅からず“映画”がきっかけとなり多くの人と結びつくことが出来、自らが行動することで点となり少しずつだが地域の人々に伝播し広がりを持つことでその取り組みは線になった。映画祭を開催することは目的ではないし、映画のロケ地を誘致してサポートすることも目的ではない。目的は地域活性、すなわちコミュニティの活性であることをぶれない軸と定め、今後の活動に精進したい。