地域公共交通の新たな展開に向けて
毎日新聞No.362 【平成24年5月11日発行】
「毎年2千キロ(東京駅-京都駅間の2往復程度に相当)ずつ路線バスが廃止され、それに伴い『買い物難民』が6百万人程度生じている」とのショッキングな報告が「地域公共交通のあり方を交通基本法とともに考えるシンポジウム」で、発表された。
一方、全国各地には住民参画や関係者(住民・事業者・行政)の協働を上手に実現しながら持続可能な公共交通を構築した事例が存在する。
同シンポジウムにおいて先進事例として紹介された、茨城県日立市の中里地域では、地域住民が主体的にNPO法人を設立して、乗合タクシー「なかさと号」を運行しており、利用者数は年々増加しているという。
同地域は、日立市の山間部に位置し、高齢化率は40%を超え、高齢者の移動手段の確保が喫緊の課題であった。その解決に向け、関係者による全世帯を対象とした説明会の実施など、地域住民の理解を求める取り組みを積極的に行った。その結果、全ての世帯はNPOの会費として年間2千円を負担するとともに利用率の向上にも貢献し、住民自ら、地域の足を支えている。
また、岐阜県多治見市では、市民が出資し、「株式会社コミュニティタクシー」を設立し、乗合バスを運行している。様々な障壁を乗り越え、今では補助金を一切受けずに、安定的な運営を行っているとのことだ。
公共交通機関の振るわない地域では、他者依存の消極的な思考に陥りがちである。住民は「市がやるなら無料か、100円があたりまえ」、事業者は「市が赤字補填してくれるなら走ってやる」、行政も「予算がついたらやるけど、お金がないとムリ。住民はあてにならないし」などと考えがちになる。多治見市では、「補助金ありきで新しい公共交通が生まれるはずがない」をスローガンに、関係者の発想転換を図った。
「住民」は企画の主役、「事業者」は専門知識を発揮し、企画・提案をする。「行政」は関係者の橋渡し役に徹する。関係3者が一体となった時に“知恵”が生まれ、補助金を必要としない持続可能な公共交通が実現したようだ。
今後の地域公共交通のあり方を探る際、2つの事例から学ぶべきは、従来の発想から、住民・事業者・行政がそれぞれ3分の1ずつの役割を担い、責任を負う、「三位一体」、「三方一両損」の発想への転換ではないだろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 矢野 貴士)