森林・高原地域の健康効果


毎日新聞No.364 【平成24年6月8日発行】

  オーストリア・アルプスに位置する「レッヒ」は「ヨーロッパ一美しい村」といわれている。この村では、車の規制や開発規制、地産地消、再生可能エネルギーの利用など、村独自の取り組みの結果、国際的にも人気の高いスキーリゾートとなっている。レッヒ村で行われたメタボの中高年を対象とした健康効果に関する政府調査を契機に、主要ホテルと村では3泊4日の滞在プログラムを開発。健康志向の滞在客に健康サービスを提供している。村周囲の高原・山岳地域には家族用、初心者用から上級者向けのトレッキングコースが整備され、夏季には多くの自然愛好家や健康志向客を集めている。

  県環境科学研究所では、森林環境・高原地域が人の心と体に与える影響について、ユニークな調査研究活動を行っている。この研究分野を推進されてきた永井正則さんによると、森林環境はいろいろな健康効果があるとのことだ。高齢化社会では、「がん」、「心疾患」が2大疾患で、冠動脈疾患の原因の過半は精神的ストレスである。ストレスがあると、分泌型免疫グロブリンAの分泌が低下するが、森林環境での休息は、唾液中の分泌型免疫グロブリンAが増加し、さらに心拍数の低下、脈拍の安定、心理的不安感や緊張感の低下が見られるなど、ストレスの軽減効果がある。また、森林散策は血圧降下をもたらす。特に、50歳代の後半以上の中高年は、血圧の降下が顕著であり、週に一度、森林での散歩を1時間、繰り返し行うことによって効果は強まる。中高年の森林散歩は血圧の低下をもたらし、心疾患のリスクを減少させる。
  高原の運動効果を研究されている山梨大学の小山勝弘さんによると、低地と準高地(清里)の運動後の酸化ストレスを比較すると、準高地の運動はDNAの損傷が少ない。また、準高地の短時間滞在や軽運動は、脳血流を活性化させ、認知テストの成績が低地よりも高くなる。つまり、高原環境の運動は、健康の増進に効果的であり、ボケ予防の可能性もある。

  身近な森林環境や高原地域で、アンチエイジングに励んでみてはいかがだろうか?また、自然環境の健康効果の研究分野がさらに深まり、県内各地の健康サービスに応用されることを期待したい。

(山梨総合研究所 調査研究部長 中田裕久)