成長はすべてを癒すか


毎日新聞No.365 【平成24年6月22日発行】

 “成長はすべてを癒す“ということばがある。中央高速自動車道が全線開通したのは丁度30年前、1982年(S57)であった。県は内陸工業基地としての成長発展を夢見て「クリスタルバレー構想」を策定し、圏域ごとにものづくりの基盤である工業団地を開発し、メカトロニクスといわれる組み立て加工型産業・企業誘致を進めた。事業所数は伸び、労働力は不足気味となり、一人当たり県民所得は1982年の1642千円から15年後の1997年には2988千円へと急伸、全国21位となった。成長はすべてを癒やすの言葉どおりの発展であった。

  さて先日、第二東名高速自動車道が開通した。数年後には中部横断自動車道が開通する。15年後にはリニア新幹線も現実のものとなり時速500キロの世界が開かれる。交通ネットワークが大きく変わろうとしている。県民の期待は膨らみ、30年前の状況に酷似しているように見える。しかし、これまで人類の理念は拡大、増加こそ成功といわれるものであった。企業にとっては規模の拡大であり、売上増であった、国や地域においても、経済を拡大させることこそ発展であると考えられてきた。しかし地球資源の有限性が明白になってきた今日、果たしてこれまでの延長線上に発展の姿を描けるだろうか。富士山の世界遺産化の推進や南アルプスのユネスコエコパーク登録への盛り上がりなどを見るとただ単に経済の拡大をめざすものとはいえない。持続、保全など新しい価値観が地域を動かし始めている。これまでのように工業振興だけでは人口は増えそうにない。高速交通網の整備だけでは地域発展の切り札とはなりえない。東京一極集中が進み地方は衰退してしまうなどと簡単にいえない。大都市の高齢者増をどう考えるのか、その一点をとって見ても一筋縄ではいきそうにない難問である。文明史的転換期であり“成長はすべてを癒す”とはいえそうにない。

  次の時代をどう切り開いていくか。あらゆる場面で拡大一辺倒ではなく、また縮小一辺倒でもなく、柔軟に縮小・撤退も視野に入れながら地域戦略を練るときではないか。

(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)