Vol.167-1 日本上流文化圏研究所の挑戦「山の暮らしを守るために」〈上〉


~地域資源を掘り起こし活用する~

【NPO法人日本上流文化圏研究所 事務局長 鞍打 大輔】

■「日本・上流文化圏構想」とNPO法人日本上流文化圏研究所

 山梨県早川町は、県の南西部に位置し、富士川の支流であり南アルプスの主峰・北岳に端を発する早川の渓谷が町を貫いている。面積370平方kmのうち96%を森林が占め、人口約1,200人のほぼ半数が高齢者と、過疎高齢化も著しい。それでも、平成の大合併に対しては「合併しない宣言」をし、町の生き残りをかけ自主自立の道を探っている最中である。
 そんな早川町では、平成6年からこれまで、総合計画「日本・上流文化圏構想」を核としたまちづくりを進めてきた。この構想は、地域で培われてきた自然と上手く付き合うための生活文化や生活哲学を掘り起こし、これを持続可能なライフスタイルとして再生すること。またそれらを早川町の暮らしの中で具現化するとともに、近代化がもたらした様々な社会問題へのアンチテーゼとして広く社会に提示していくことを理念として掲げている。
 平成8年には、構想推進の担い手として日本上流文化圏研究所(以下、上流研)を立ち上げた。設立当初は町役場の一部であったが、平成18年にNPO法人として独立し、現在は町の中間支援組織として、地域資源の調査や整理収集、町内のまちづくり活動支援、都市農村交流の推進、集落の維持・活性化支援といった活動を、7名の事務局員が町内外のボランタリーな力に支えられながら展開している。

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町の様子事務所の様子

■ 上流研のこれまでの取り組み

 上流研のミッションを一言で言うと、「山の暮らしを守る」ことである。そのために、これまで以下の3つを重点テーマに活動を進めてきた。

①  地域資源の掘り起こし、保全、活用

②  まちづくり支援、町内の連携づくり

③  集落の維持・活性化へ向けた支援

 今回は、そのうち①と②について紹介する。

①地域資源の掘り起こし、保全、活用

町民の暮らしに光を当てる「2000人のホームページプロジェクト」

 上流研の設立直後、重点的に取り組んだのが、地域資源の調査である。その一つが2000人のホームページプロジェクトで、早川町民全員を取材しホームページ上で顔写真とともに紹介するという試みである(活動開始当初、人口が約2000人であったためこのようなタイトルになった)。当時から関わりのあった大学生に協力してもらい、5年かけて町内全戸を回り、取材に応じて下さった約1,000人を掲載している。
 各戸を訪ね、町民一人ひとりからそれぞれの生き様や山村生活の中で培った生活の知恵や技、地域に対する思いを聞き取っていく地道な作業は、学生にとっても非常に有意義な学びの場となり、100名を超えるボランティアスタッフが口コミで集まり、町の応援団となった。
 上流研にとっても、町民一人ひとりと膝を突き合わせて語り合うという姿勢そのものが、町民と上流研の信頼関係を構築する一助となり、町民一人ひとりが語った地域への思いは、その後の活動戦略を導き出す重要な基礎資料となった。
 また、こうした話を自分の子どもや孫にも伝えることの少なかったであろう町民にとっても、学生がそれぞれの話に興味を示すことで、少なからず地域への自信と愛着を取り戻すきっかけとなったように思われる。

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取材活動の様子2000人のホームページ

町民参加型で町のガイドブック「めたきけし」を作成

 反響の大きかった2000人のホームページではあるが、取材にあたったのが町外在住者であったことに、少なからず違和感も抱いていた。やはり町民自らが地域の魅力を掘り起こし理解すべきではないか。そんな思いから、町民とともに町内全集落をくまなく歩き、地域資源を収集しガイドブックにまとめる取り組みを平成19年から実施した。
 これには、老若男女総勢108名の町民が参加し、調査はもちろん、掲載する文章やイラストなども町民自身が手がけ、3年がかりで町内全域全12巻のガイドブックが完成した。完成したガイドブックは、町内全世帯、町内小中学校、関係機関等に配布し、町内の観光施設では観光客向けに販売もしている。
 ちなみに「めたきけし」とは「たくさん聞きなさいよ」という甲州弁で、ガイドブックを片手に集落を巡り、出会った町民に不明点や詳細等を尋ねながら交流を深めてもらいたいという願いが込められている。

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集落の地域資源調査
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掲載項目の取捨選択イラスト作成

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完成したガイドブック

②まちづくり支援、町内の連携づくり

あなたのやる気応援事業

 掘り起こした資源を、地域の活性化のために活用する仕組みとして、平成14年から3年間、農林水産省の補助事業を受けて「あなたのやる気応援事業」を実施した。この事業は、町民の何かやりたいという思いを実現に向けてサポートするもので、町民から地域の資源を活かした商品開発や起業などのアイデアを募集し、審査を通ったものには活動資金を助成するというものである。地域資源の活用とともに、町民が自主的に動き出すきっかけを作る試みでもあった。
 初年度には予想を大きく上回る19グループが名乗りを上げ、その後3年間で計24グループを助成した。事業開始から約10年が経過した現在、遊休農地を活用したブルーベリー農園の開園、早川町の自然を来訪者などに伝えるネイチャーガイドの事業化、集落にかつてあった手打ちそば屋の復活等、地域資源を活用した町の新しい魅力が多数生まれている。

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赤沢宿に開店した「そば処武蔵屋」野鳥公園で始まったネイチャーガイド事業
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ヴィラ雨畑が開発した「豆腐御膳」遊休農地を活用したブルーベリー農園

早川サポーターズクラブの立ち上げ

 しかし一方で、この仕組みは町民の自主的な活動を生む仕掛けとして成果を上げたものの、助成金の原資を補助金に頼っていたため、どう継続させるかが課題であった。そこで、上流研では平成16年に「早川サポーターズクラブ」を立ち上げた。早川町を応援して下さる町外在住の方々に年会費5,000円のクラブ会員になっていただき、会費の約半分をやる気応援事業の助成金として使うという仕組みである。
 会員の方々には、町内の観光施設利用時に会員割引が受けられる他、年6回「やまだらけ」という情報紙を送付し、早川町の様々な魅力を紹介している。また、やる気応援事業で生まれた商品を会員価格で販売したり、町民がガイドや講師役となって早川町魅力を伝えるツアーを定期的に開催したりして、会費の対価を感じられる仕組みとなっている。
 現在、町出身者、交流のある品川区民、観光客などを中心に、約250名が会員になっており、集まった会費のうち毎年50万円程度をあなたのやる気応援事業の助成金として使わせて頂いている。

体験型観光の推進

 このような仕組みの中で取り組んできた、町民による地域資源の掘り起こしと活用の動きを町全体に拡大していくために、サポーターズクラブ向けに実施してきたツアーをベースに、体験型・着地型観光の推進にも取り組んでいる。
 平成20年に早川町役場、町の商工会や観光協会等と早川体験型観光推進協議会を立ち上げ、町内34の個人・団体が実施する91の体験できるプログラムと、提携した18の観光事業者(宿泊、食事、温泉等)をまとめた体験プログラム集を作成した。翌年から、旅行会社への営業活動を開始し、現在年間20本程度のツアーを受け入れている。
 特に、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている赤沢宿では、地元町民が受け入れに積極的で、ガイドの講習会を実施したり、集落内の看板を整備したりと、地域ぐるみでツアー客の受け入れ態勢を整える動きも始まっている。

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体験プログラム集赤沢宿ガイド味噌仕込みツアーしめ飾りづくり
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赤沢宿での受入体制整備に関する話し合い赤沢宿の方々と身延往還の調査

■ 地域の良さを生かしながら地域で暮らし続けられる環境を作る

 上流研では、町民自身が地域資源を掘り起こし活用する動きを生み出すための仕掛けを、様々な形で作ってきた。平成24年度のあなたのやる気応援事業では、地域の20〜30代の若者の取り組み3本への助成が決まるなど、上流研の哲学と地域づくりに対する姿勢が世代を超えて町内に浸透し始めている。この流れをより強固なものにして、「地域の良さを生かしながら地域で暮らし続けられる環境づくり」を実現し、早川町の魅力的な山の暮らしを守っていきたいと考えている。

〈下〉に続く