身近にある中小企業応援策
毎日新聞No.366 【平成24年7月6日発行】
県内大手製造企業の人事担当役員と話をした時のことである。「歴史が浅い我社においても’11年度には二桁の退職者が出た。毎年、少しずつ増えてくる。再雇用問題は大きなテーマだ。」とのことであった。一方、経済産業省のものづくり白書は、「中小企業では中核人材の不足感が高く、大企業・中小企業間には人材の格差がある」としている。技術レベルの高い企業の退職技術者をいかに再活用するかは、産業界の大きな課題であり、身近にこうした退職技術者あるいは、その予備軍がいる山梨県にとっては優位な環境にあるとも言える。
さて’90年代以降、ものづくり生産現場は大きく変貌した。経済のグローバル化の進展とIT革新による技術の標準化、生産技術のデジタル化により企業は生産拠点を国外へ移動することが可能となった。時を同じくして、日本のメーカーの多くが中国や台湾、韓国への技術流出が止まらないことに頭を痛めている。東アジア知財問題研究会によると技術流出経路の一つとして、「日本人技術者のアジア各国企業への転職」を挙げている。山梨県内にも海外企業から狙われるような高い技術力を有する企業があり、人材がいる。
こうした世界的規模で生じている生産システムの変化に乗り遅れた日本企業、とりわけ下請け体制に組み込まれてきた中小企業は、現在、生死をかけた経営改善下にある。特に企業経営の根幹に関わる生産体制、経営手法などの変化が激しく、県内企業は苦戦している。こうした中で大手企業において技術と経営手法を長年経験した退職技術管理者を中小企業へ誘導し、技術的資源や生産管理手法の移転を進めることは経営革新策を考える県内企業にとって大きなメリットがある。
因みに、政府の’12年版「高齢者の経済生活に関する意識調査」(全国55歳以上の男女2466人)によると、65歳ぐらいまで仕事をしたいという人が、55~59歳では40.6%(単数回答)、60~64歳では47.4%と高くなっている。そして仕事を選ぶ際に重視する条件は、総数で「経験が活かせること36.8%」「体力的に軽い仕事であること36.3%」「収入33.8%」(複数回答)である。調査結果からこの年代層は、60歳を過ぎても働く意欲は大いにあることが分かる。これ等年代層の経験と技術を地域社会で循環させることが県内企業の経営革新に繋がることになる。
(山梨総合研究所 専務理事 福田 加男)