後始末は最低限の責務
毎日新聞No.367 【平成24年7月20日発行】
暑さが本格化してきた。日中は肌を焦がす日差しが照りつけ、日陰にいても蒸し暑い。散歩するなら早朝が気持ちいい。穏やかな朝日、爽やかな空気、みずみずしく輝く草木、道端の犬のふん。犬のふん? なぜこんなところに…。せっかくの爽快な気分が台無しになる。
家の玄関先や田畑、周辺道路などに放置されたふんに不快感を覚え、行政に苦情を申し立てるケースは少なくない。身近な場所に放置された当事者にとっては、身勝手な他人による生活への侵害行為だと言える。
行政の「ふん害」対策をみると、①条例による規制②飼い主に対するマナー順守徹底の啓発―が中心だ。条例では、環境美化や飼い犬飼育に関するものの中で、飼い主にふんの回収を義務付け、違反した場合は改善勧告や命令のほか、1~5万円以下の過料を科すと定めた自治体もある。環境省の資料などによると、山梨県内では11市町が条例に「ふん害」防止に関する項目を設けている。
実際はよほど悪質な行為が確認されない限り適用はされず、全国的にも適用例はまれ。条例に抑止効果を求めながら、飼い主への啓発活動を進めているのが現状のようだ。
犬の登録・予防接種時の呼び掛け、広報やウェブサイトでの周知、公園等への看板設置など、啓発活動は地道。県外では茨城県つくば市などで、発見した犬のふんに警告カードを設置して飼い主にマナーを訴えるアクティブな「イエローカード作戦」を展開している。これは県内では甲府市の県芸術の森公園で2010年に実施されたが、その時は思うような効果が得られなかったという。
ふんの後始末は飼い主として最低限のマナーであり、本来は法令で義務化するまでもないはず。だがごみのポイ捨てと同様、最終的には人のモラル次第という難しさがある。6月下旬、大阪府泉佐野市が犬のふん対策の財源とするため「飼い犬税」導入を検討すると表明したが、マナーの悪い人間がいるから周囲がそれを補うという手段はあまりにも寂しい。後始末を忘れがちな飼い主には、ふんの後始末がマナーであると同時に、愛犬とのふれあいの一つでもあると認識を持って、散歩を楽しんでほしいと願う。
(山梨総合研究所 主任研究員 河住 圭彦)