Vol.168-2 甲府市中心市街地活性化にむけて〈 前編 〉
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 古屋 亮
1 はじめに
全国各都道府県の多くの市町村では、いわゆる旧来からの中心市街地が、人口減、歩行者通行量減、小売業年間販売額の低下、商店街の空き店舗率拡大などにより衰退の一途をたどっている。この現象は甲府市でもみられる。そのため甲府市では、甲府市中心市街地(以下中心市街地と記載)の活性化を目的に、平成12年、平成20年「甲府市中心市街地活性化基本計画」を策定した(現計画は平成25年3月末までが計画期間)。この間、官民あげて多くの事業に取り組んできた。甲府駅北口再開発事業、シビックコア地区整備事業(新合同庁舎建設)、甲府市市庁舎の建設、紅梅地区再開発ビルへの住宅建設、百貨店のリニューアル計画等が事業終了もしくは事業完成に向けて推進中である。また関連として山梨県防災新館建設、県庁公園化整備、甲府駅南口周辺地域修景計画策定事業等が進むなど中心市街地はこの4~5年の間に大きく変貌を遂げている。
さらに今後10年ほどで中部横断道路が静岡県までつながり、リニア中央新幹線の整備が進む。東京都、神奈川県や静岡県、中京、関西までを含め大都市圏とのアクセス環境が劇的に向上することになり、今後交流人口の増加が見込まれている。歴史的な変遷期を迎えている甲府市では、まちづくりの絶好のチャンスを迎えている。
しかしながら、現在、甲府市中心市街地で行われている各種事業が終了し、さらに各大都市圏との交通アクセス環境が向上すれば、甲府市中心市街地は多くの人が集い活気あふれる街に変貌を遂げるのであろうか。各種事業は展開したが、その帰結として状況は変わらないかもしれない。そんな思いを多くの甲府市民、本県民が抱えているのではなかろうか。
本稿では、今までの各種事業をより実りあるものとするためにも、今後、強みを活かしたまちづくりに向けての方向性を示していく。
そのために、まず甲府市中心市街地活性化基本計画について概観(前編)し、その後、観光による交流人口を増やす仕掛けとし、文化・歴史を活かしたまちづくり(後編)について、若干の提言を試みる。
2 甲府市中心市街地活性化基本計画について
甲府市では、平成20年11月に『甲府市中心市街地活性化基本計画』を策定した。この計画策定にあたり、前計画(平成12年甲府市中心市街地活性化基本計画)について評価がなされている。まずはこの評価についてみてみる。
前計画では、「近世を引き継ぐ現代の城下町へ【過去から】」、「花と緑で溢れる山の都へ【現在】」、「未来にはばたくファッション・ジュエリー都市へ【未来へ】」の3つを将来像とし、「交流機会の創出」を基本方針と定めていた。この将来像、基本方針のもと、「賑わいを感じさせる街」、「歴史を感じさせる街」、「文化を感じさせる街」、「優しさを感じさせる街」、「接近しやすい街」の5つの整備目標を掲げ、38(小分類61)の事業を盛り込んでいた。
また、同時に甲府商工会議所でも『甲府TMO構想』を策定し、「おもてなシティ甲府」をコンセプトに、「花と緑の溢れるまち」、「アクセスしやすいまち」、「活気のあるまち」の3つのコンセプトのもと、環境美化、回遊性向上、空き店舗の活用、イベントの再編強化など22(小分類29)の事業を盛り込んだ。
この各種事業の評価は、「事業が実施されたもの」については、策定段階から達成目標が明確で成果を上げている。「事業が進まなかったもの」については、費用や財源確保、商店街の理解や意欲等が大きな問題であり、今後は実施主体を明確化し、制度の改善や充実により支援体制を高めることが必要であるとされている。
事業が進まない要因について具体的にみると[1]、
- プロジェクトの多くが、行政・TMO等の補助や支援のもとに成り立っており、これが崩れた場合には事業が頓挫している。また、事業メニューは数も多く多種にわたるが、各プロジェクトを誰が主体に推進するかの役割と責任が不明確なため、動きが取れなかったものが多い。
- 基本計画個別事業やTMO事業に関しては商業の活性化が命題として掲げられているが、その中心となるべき商店街や商店主が動かず他人任せとなったことも、未達成の大きな要因である。また、事業個々だけではなく、様々な事業の相乗効果により活性化等に繋がるが、各事業間(プロジェクト間、ソフト・ハード間)の連携や効果が十分に検討されていなかった。
- 個別事業等の推進に関して、事業メニューに応じて関係する商店街等の組織を動かす人材(経験のある人)が不足しており、プロジェクトの推進が他力や他人の土地や建物に頼り過ぎ、当事者に自らの役割が理解されておらず具体性に欠けていた。
- これらを総合的に推進するためには、行政、TMO(商工会議所)、商店街・商業者間の協議・連携の場が必要であるが、相互のチェック体制が機能していなかった。
となっている。これらの課題を念頭に置きながら、現計画は策定されている。次に、現計画をみてみる。
現計画では、長期的に取り組む最重要な課題として、効率的な行政運営のため、コンパクトで持続性のあるまちづくりをあげている。
これは、基本的に車に依存せず、歩いていける範囲において日常生活が可能な場所であることを目指しているものである。とりわけ高齢化が進む中心市街地周辺においては、特に高齢者が買い物、公的サービス、医療・福祉、地域活動など、様々な日常生活において、歩いて行動が可能な場所を目指したものである。
さらに、中心市街地は、普段は地元商店街や郊外で買い物をしている人が、買回り品の購入のため、また、娯楽やいつもより少し高めの食事のためなどに、少し着飾ってやって来る、いわゆる、「ハレ」の場所として再生させていく必要があり、加えて、特に目的がなくまち歩きを楽しんだり、まちが過ごした歴史や時間、その中で育まれた文化を感じたりなど、非日常を感じられる場所であることも重要であるとされた。
このようなまちづくりのためには、まずは、中心市街地が生活者、来街者に買い物の場所として選ばれること、次に、中心市街地が人の集まる楽しい場所となること、そして、中心市街地が住みよい場所であると認識してもらうことが必要であるとした。
また、中心市街地は本市の顔であり、中心市街地の印象が本市の印象を大きく左右するといっても過言でないため、中心市街地の衰退は、市全体に影響を及ぼす大きな問題であるという認識のもと、日常生活の場所として、また、非日常が感じられる場所として、住んで、訪れて喜びを感じられる、コンパクトにまとまった中心市街地を目指す将来像としている。
この将来像をもとに、基本方針として、
- 買い物の場として楽しめる中心市街地の再生
- 歴史や文化にふれることのできる中心市街地の再生
- 定住の場所として選ばれる中心市街地の再生
を掲げ、計画実践のための方針として 「関係者の協働によるまちづくり」のもと、69の事業が盛り込まれた。
主な事業としては、甲府駅北口整備、シビックコア地区整備事業、新県立図書館整備、甲府市役所新庁舎建設、甲州夢小路整備、百貨店リニューアル計画、紅梅地区再開発事業、まちなか回遊道路整備、甲府城鉄門整備、各種イベント事業などである。これらの事業計画の結果としては、事業終了が22事業、事業完成に向け推進中39事業、事業実施に向け検討中2事業となっている。
具体的進展なしの事業が5事業あるが、これらは大規模駐車場整備 、商店街、大型店、駐車場事業者が連携した共通駐車場利用システム構築事業、バス利用買い物客への乗車券サービス事業などとなっていて、当初計画されていた事業の大部分はほぼ予定通り終了することが予想される。
現計画では、活性化の指標として、3つの項目について具体的な数値目標が設定されている。小売業年間商品販売額 目標値49,640百万円に対し43,867百万円(達成率88.4%)、歩行量通行量 目標値188,010人に対し、150,196人(達成度79.9%)、居住人口 目標値6,090人に対し、5,660人(達成度92.9%)となっている。この数値は平成23年度のものであり、計画期間が平成25年3月までであることから、今後、多少の変動があることが想定されるが、いずれの数値も現状目標値に達してはいない。
目標値には達していないが、この数値は全国の他都道府県、他市町村の中心市街地の状況と比較すると決して劣っている数値ではない。
表1 甲府市中心市街地活性化基本計画 数値目標達成度
出典:認定中心市街地活性化基本計画のフォローアップに関する報告(平成24年3月甲府市)
また、結果として、当初目指していた地域像である「コンパクトで持続性のあるまちづくり」のもと、高齢者が買い物、公的サービス、医療・福祉、地域活動など、様々な日常生活において、歩いて行動が可能な場所となることについては、その方向性でまちづくりが進んでいることについて異論はなかろう。しかしながら、現計画中にある「中心市街地が生活者、来街者に買い物の場所として選ばれること、次に、中心市街地が人の集まる楽しい場所となること」については、現計画の数値目標の達成度しか判断基準がない状況とはいえ、達成された、達成される見込みであるとはいえないであろう。
この要因については、まずは各種進行している事業が全て終了していない点を挙げなければならない。また現在進行している建設関係の事業、いわゆるハード面の事業が終了後、ソフト面として人を呼び込む仕掛けや、行政と事業者、関係各機関、市民などとの連携強化により各種取り組みが進んでいくのであろうから、今の段階での評価は早急かもしれない。
また、人口減、経済環境の悪化に伴う消費市場の減少、消費者のニーズの多様化、大規模商業施設の開設に伴う商圏の変化などが、現在のところ数値目標を達成できない最大の要因であると考えることもできる。
しかしながら、現行計画の計画期間が終了し、評価をより詳細に明らかにしていくと、平成12年に策定した前計画の問題点の指摘と、内容や主体に変化があったとしても、結果としては何も変わっていないという事実を認識するかもしれない。
また買い物環境については、甲府市の商圏を取り囲むようにして、大規模商業施設がある。これら大規模商業施設は、消費者のニーズ・トレンドをいち早くつかみ、また流通、仕入などに、中心市街地の商店とは比較にならないほどの強みを持っている。このまま同じ土俵で戦いを挑んだところで、中心市街地の小売業年間販売額は目標値に向かい改善するのであろうか。
各種事業が終了したのち、現状では依然として空き店舗(シャッターが閉まっている店舗)が多く見受けられる中心市街地の商店街に、店舗が戻り、人々が集い、まち歩きをしながら楽しめる環境になると言えるのであろうか。
まさに中心市街地におけるまちづくりの絶好の好機にある現状、言いかえればラストチャンスという状況のなかで、これからの中心市街地を考える上では、いま一度、中心市街地がどうなれば良いのか、活性化とはどんな姿なのか、また誰のための活性化なのかという最終的な目標(ゴール)を認識することが何よりも重要である。
その上で、最終的な目標に向かうために、何が足りないのか、何をしたら良いのかを明らかにする必要がある。
これらは、中心市街地に関係する人々によって多様な解釈があろう。
もしかしたら、甲府市の中心市街地で暮らす人々は、生活に不自由を感じず、また生活の再生産の仕組みが成り立っていて、これ以上の中心市街地の再生や活性化など必要がないかもしれない。しかし、最終的な目標を示し、明確なコンセプトの元でまちづくりを進め、足りない部分(課題)を補っていくような地道な努力を継続すれば、甲府市にしかできないという再生の方法は必ずあるはずである。
後編において、これらに関する若干の提言を加えたい。
[1] 評価については、甲府市中心市街地活性化基本計画(平成20年11月)pp.35~36を参照