Vol.170-1 山梨県におけるコミュニティビジネスの現状と課題


山梨県立大学 国際政策学部
准教授 安達 義通

1.コミュニティビジネスとは?

 国内各地域では、まちづくり・観光から農業、福祉・子育て支援、環境保護に至るまで、各分野で様々な地域課題が顕在化している。これまで地域課題に対しては、地方自治体等の公共セクターが、豊富な財源を使って解決策を提供してきた。しかしながら、近年、国家財政の逼迫による地方交付税交付金や国庫支出金の削減等に加え、市民ニーズや地域問題の多様化により、柔軟に対応することの難しい公共団体だけでは、対応が困難な状況になっている。一方、これらの課題は公共的な要素が強いため、営利追求を目的とする民間セクターにとっては、採算面から参入しにくいという性質を持っている。
 このような背景から、これまで活用されてこなかった地域資源に着目し、「地域住民が主体となって、ビジネスの手法を活用しつつ地域課題を解決する」コミュニティビジネスが、各地域で立ち上がり一定の役割を果たしている。

2.山梨県におけるコミュニティビジネス

 山梨県においても、地域課題を解決すべく、同様の団体が数多く設立されている。なかでも都市農村交流という手法を使って耕作放棄地の再農地化を積極的に推進しているNPO法人「えがおつなげて」(北杜市)、子育て支援の新しいモデルを確立しつつあるNPO法人「ちびっこはうす」(甲府市)、リユース食器活用の全国モデルと言われているNPO法人「スペースふう」(富士川町)等、優良事例として数えられる団体が多く存在している。
 2005年には山梨県全体のコミュニティビジネスの発展を促すべく、「やまなしコミュニティビジネス推進協議会」が発足し、会員は、2011年11月現在で、77の事業者と38の支援団体の計115団体に達し、その規模を拡大している。2011年には、「やまなしソーシャルビジネススクール」、「ソーシャルビジネスプランコンテスト」などを実施し、県内のソーシャル(コミュニティ)ビジネス分野における人材の発掘・育成、事業の深化に貢献してきた。
 しかしながら、コミュニティビジネスは、地域貢献・社会貢献という目的と営利追求をうまく融合した仕組みを構築しなければならないという難しさがあり、運営上の様々な課題を今なお抱えているのも事実である。

3.山梨県におけるコミュニティビジネスの現状と課題 ‐2011年度調査結果から

 このような問題意識から、2011年度、山梨県立大学では山梨県内のコミュニティビジネス団体の現状を把握すべく、サンプル数は少ないが予備調査として、アンケート調査及びヒアリング調査を行った。以下がその要約である。

(1)アンケート結果

 全体的にみると、山梨県のコミュニティビジネス団体は、比較的規模が小さい。年間事業規模が500万円以下の団体が全体の5割を占めており、多くの雇用を生み出すような規模の団体は少数に留まっている。実際、常勤は全体の30%に留まっており、無償ボランティアが27%も占めている。そのため、人材確保に関する最大の問題は、「十分な給料が払えない」こととなっている。

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 詳細にみていくと、組織形態が2分化、つまり、「法人格を持った団体」と「そうでない団体」に分化していることがわかる。前者は特定非営利活動法人が、後者は個人事業や、市民団体、任意団体等、その他と分類される組織が中心となっている。

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 組織形態の分化は、経営規模やスタッフ数にも反映している。年間事業規模が3,000万円以上の団体は、特定非営利活動法人、株式会社、その他組合組織等、法人格を持つ団体に限られており、特に、数では特定非営利活動法人が多い。その背景には、多くの特定非営利活動法人が、公的機関からの委託・補助金に支えられているという事実もある。

組織形態と年間事業規模の関係

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 事業内容に関しては、既存事業の規模拡大による収入の増加を目指しており、新規分野への参入を考えている団体は少なく、既存事業が事業として成熟していないことが伺える。また、経営ノウハウの不足と知名度の低さを克服する必要性があるにも関わらず、財政的に厳しい状況にあるため、行政との連携体制を構築し、それらの課題の解決を図りたいと考えていると読み取れる。

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(2)ヒアリング結果

 女性中心の3団体、男性中心の2団体へのヒアリングを行った。女性団体は10年以上の実績を持っているのに対し、男性団体は比較的新しい事例となった。
 これらのヒアリングの結果を踏まえて、まず着目したいのが組織形成の経緯である。長く継続している団体は、価値観の共有がなされており、その価値観がベースとなって、比較的大きな組織を形成することに成功している。
 次に、事業テーマに着目すると、女性中心の団体は、食、健康、環境、子育て支援等、生活に密着したイメージしやすいテーマを選ぶ傾向にある。女性は、コミュニティとの関わりが強く、地域の課題を具体的な感じることができる機会が多いためであると思われる。
 一方、男性中心の団体は、「元気な村づくり」、「地域・中心市街地の活性化」などとテーマが大きくなる傾向にある。このように、コミュニティビジネスにおける事業のテーマ及び内容には、男女の差が出てくる傾向にある。
 さらに、女性グループ、特に、主婦グループとコミュニティビジネスの親和性が高いことがわかった。コミュニティビジネスは、十分な利益を生み出しているケースが少なく、有償ボランティア等に大きく依存度しているのが現状であるようだ。しかし、主婦層、特に子育てがひと段落し、時間的な余裕ができた女性は、高額の収入より、主婦としての家庭の仕事をこなしつつ、社会との接点、あるいは新たな生き甲斐を求めて、コミュニティビジネスに関わっているケースが多い。換言すると、女性、特に主婦の置かれている状況が、彼女達をコミュニティビジネスに参加させやすくしているのだと思われる。

4.まとめ

 以上の調査結果から、以下の点が指摘できる。まず、山梨県全体におけるコミュニティビジネスの市場の拡大を考えるなら、各団体の法人化を含む組織整備が大きな課題となる。すなわち、「個人事業、市民団体・任意団体」等から「特定非営利活動法人」等、法人形態へ組織をシフトさせ、規模を拡大させていくことが望ましい。その際、拡大の前提として、組織のベースとなる「価値観」の共有が重要な役割を果たすと言える。
 女性主体の団体は、生き甲斐づくり及びワーク・ライフ・バランスの実現形態として、コミュニティビジネスに従事する傾向にあることがわかった。このように考えると、今後、地域の女性、特に子育ての終わった主婦を中心としたコミュニティビジネスをひとつのモデルとして構築していくことも重要なテーマとなるだろう。その際、イニシャルコストの補助、経営ノウハウの提供等、不足要素が行政の支援方向として重要になると思われる。
 さらに、冒頭の定義に従い、コミュニティビジネスをひとつのビジネスとして考え、性別の男女を問わず、経営的に自立可能な組織として成長させていくことも重要である。今回の調査では、この「食べていくことができる」コミュニティビジネスの構造について調べることができなかった。今後、さらに研究を深めていきたい。