エネルギーは眠らない
毎日新聞No.371 【平成24年9月28日発行】
一日の疲れを癒してくれる温かい入浴。ガスや電気による給湯に支えられた都市生活の一コマであるが、使い捨てられる排水の量が多く、その点において循環型の生活様式とは言い難い。そのため、生活排水が持つ熱=下水熱を利用しようという取り組みがある。下水道内は大気より温度が高くなるため、その熱を暖房や給湯に利用しようという研究だ。自然エネルギーは天候に左右されやすい。ところが地下に埋設され都市を流れ続ける下水熱なら冷めることがない。もともと至るところに巡らされているのだから、熱を配る際のエネルギーロスも少なく済むというわけだ。
そのほかにも都市特有のエネルギー源はある。ひとつには、エアコンの室外機から吹き出す熱風だ。ヒートアイランド現象の原因にも数えられるこの排熱は、コージェネレーションと呼ばれる技術によって、循環システムの中でエネルギー源として生まれ変わる。
また、雑踏も有用だ。床型の発電機を多く踏むことで、その圧力を電気に変換する床発電に利用できる。東京駅の改札においてはラッシュアワーを目当てに、Jリーグヴィッセル神戸のホームスタジアムでは多数のサポーターを目当てに床発電システムの実証実験が行われている。
多くの会員が集まるスポーツクラブにも期待できる。ランニングマシンなどで会員が運動しながら発電した電気を売却し、その分を会費から割り引いてくれるクラブなら、入会希望者も増加するのではないだろうか。
従来までは見過ごされてきた都市の風景の中に、実は重要なエネルギー源が含まれていることが証明されつつある。
経済産業省のエネルギー白書によると、日本における対GDPのエネルギー経済効率は、先進国の中で最も高い。低いエネルギー自給率をカバーするための技術力がその背景となっているからだ。
こうしてみると、私たちの想像力やそれを実現させようという努力こそ、眠らないエネルギー源なのだと気がつく。
都市も自然もその両方が身近にある山梨においては、エネルギーの効率的な補完関係を築くことで新たな未来像が思い描けるようになる。これは山梨だけではなく、日本の未来像だろう。
(山梨総合研究所 研究員 赤沼丈史)
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