インドネシアの「今」


毎日新聞No.372 【平成24年10月12日発行】

  県内では生き残りをかけて海外展開を模索する中小企業も多いと聞く。進出先としてよく耳にするのは、中国、タイ、ベトナムなどであるが、いま、新たな投資先としてインドネシアが注目されているという。
  そこで、山梨総合研究所「アジアフォーラム21研究会」では、現地へ赴き、インドネシアへ進出した日系中小企業を始め、ジェトロ・ジャカルタ事務所、ジャカルタ・ジャパン・クラブへのヒアリング調査を実施した。

  インドネシア国内の状況をみると2010年時点の人口は2億3千万人超と世界第4位にあり、国民一人あたりGDPは年々増加、消費爆発が起こるとされる3千ドルを超えた。総人口の9割近くがイスラム教徒であり、世界最大のイスラム教国にして、安定した民主主義体制を実現した稀有な国となっている。
  人口構成をみると、15~64歳の生産年齢人口が、それ以外の人口の2倍以上を占め、経済成長を促進するとされる「人口ボーナス期」に入っている。今後20年程度はこうした人口構成が維持されるとみられ、持続的成長に最も適した時期を迎えている。
  また、インドネシア人の持つ親日感情や日本製品へのブランドイメージは極めて高く、2011年の自動車、自動二輪車のシェアは、いずれも日本車が9割超を占めている。
  こうした好材料を背景に、ジェトロ・ジャカルタ事務所への相談件数は増加しており、日本からの直接投資額も過去最高を更新したとのことだ。
  一方で、課題も残されている。経済成長に交通、エネルギーなどのインフラ整備が追いつかず、交通渋滞は深刻化し、計画停電も頻発しているという。
  最低賃金の上昇に伴う人件費負担の増加、場当たり的なルール変更や恣意的な制度運用など法制度の不確実性、現地進出後の支援不足も課題とされる。
  インドネシア進出を希望する日系中小企業に対しては、徹底したマーケティングリサーチのほか、イスラム文化への配慮や、相互理解がポイントであるとの進出企業関係者の言葉が心に残る。

  インドネシアは有望な投資先として変貌を遂げつつあるとの印象を持った。グローバルな視野でビジネスチャンスの追求が求められる時代、暴動、自爆テロといった負の先入観は可能性を捨て去ることに等しい。インドネシアの「今」を客観的かつ冷静に見極めることが求められる。

(山梨総合研究所 主任研究員 矢野貴士)